OPEC長期予測は2021年65ドル、2040年92ドル

岩瀬 昇

OPECが “World Oil Outlook 2016” と名づけた長期予測(「OPEC長期予測2016」)を発表し、そのシナリオの一つとして「石油需要がピークを迎えるケース」を織り込んだというFTの記事を、弊ブログ#258「FT:『OPEC曰く、10年ちょっとで石油需要はピークを迎える』」(2016年11月9日)で紹介した。筆者はこのブログを「ところでOPECは、価格についてはどう見ているのだろうか。触れていないのだろうか? 本文を読んでみる必要があるなぁ。」と結んでいる。

という訳で「OPEC長期予測2016」を手にしてみた。400ページ以上あり、ずっしりと手に重い。分量と読むのに必要な時間と、何より筆者の能力をしては読み通せそうにない大論文だ。
仕方がないので、目次をめくり、該当箇所を探してみた。

お目当ては、第一部「2040年までの石油需給展望」の第1章「メインシナリオ(Reference Case)の前提」の中の第6節「石油価格前提(Oil price assumption)」にあった(なお、本文には番号は記載されていないので筆者が便宜的につけた)。

この「石油価格前提」は非常に興味深いものとなっている。
まず2015年と2016年第3四半期末までの価格動向を振り返っている。その上で、短・中期と長期では異なる原動力(drive)が働くとしている。

短・中期価格は予測需給バランス(expected supply and demand balance)が原動力だとし、黙示的在庫変動(implied stock change)から推測することが可能だ、としている。もちろん地政学、投機的な動きおよび市場心理などが影響を与え、これらは定量化ができないが、在庫変動については、戦略備蓄の積み上げ、精製能力の拡大および新規パイプラインの建設などの要因があるが、シュミレーションが可能だとしている。

一方長期価格は、限界生産コスト要因(cost factors of producing marginal barrels)により一義的に動かされると信じられている、としている。なぜなら時間が短・中期価格に影響を与える上述した諸々の要因を市場に反映させ、結局は追加需要を賄うために必要な、オイルサンドやより複雑な地質構造をもつタイトオイル、あるいは深海や北極海における限界生産コストが決定要因となる、としている。

以上を踏まえ、2016年のORB(OPEC Reference Basket)価格は平均40ドルになるとみなし、来年以降は2021年まで毎年5ドルずつ上昇する。したがって2021年には実質価格(2015年ドルベース)で60ドルを若干上回った水準になる(名目で65ドル)としている。

一方、長期価格は、2021年以降上昇スピードが穏やかになり、2040年には実質価格で92ドル(名目で155ドル)になる、と仮定している。

そして最後に、これらはすべてメインシナリオを作成するために必要な作業上の前提・仮定であり、OPEC事務局の見通しでも、OPECにとって望ましい価格ということではない、と強調している。

なるほど。
「作業上の前提・仮定」か。

でも「前提・仮定」だから何でもいい、という訳ではないだろう。優秀なアナリストたちが皆で議論をし、こうなるのではなかろうか、とベストの論理的判断をしたということではないのだろうか?
だからこそ有力機関の予測が市場を動かす要因となりうるのだ。

エネルギーアナリストとして肝に銘ずるべきは、OPECは在庫変動を将来の需給バランス推移、ひいては価格動向のモノサシとしているという事実だろう。

では、IEAはどのような「前提・仮定」をおいているのだろうか?
来週にもIEAの最新長期予測(World Energy Outlook 2016)が出るはずだ。
どのような記載になっているのか、今から気になるなぁ。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年11月13日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。