蓮舫氏の二重国籍を軽視する人達

中村 仁

二重国籍問題を抱えた状態で、朝日新聞のイベントに登壇した蓮舫氏(民進党サイトより:編集部)

国が放置してきた影響も大きい

民進党代表の蓮舫氏が二重国籍という違法状態を20年以上、続けていたようですね。政権交代を目指す野党の党首が日本国籍と台湾国籍を持ったまま首相に就任したら、どちらの国益を尊重するか。この国籍法違反は四方八方から批判を浴びるだろうを思っていたら、意外に静かなのです。なぜなのだろうか。一つの手がかりを得ました。

最近、友人が集り、政治、社会問題を議論したとき、蓮舫氏の二重国籍もテーマになりました。日本の国籍法では、「22歳までに国籍の選択をし、日本国籍を選択した場合、外国籍からの離脱を求める」努力義務を課しています。この数人は国際機関、シンクタンク、大手商社、銀行に勤めた職歴があり、豊富な知識、常識を持っているはずの人たちばかりです。蓮舫氏を問題視するのは私一人で、他は「お前は何をいうか」と、すさまじい勢いです。それを聞くうちに、多くの国民もそういう考えなのだろうなと、思いました。

「国際機関、シンクタンクは異なる国籍の職員、社員の集団だ。一般企業も社員を多国籍化しないと、やっていけない。グローバル化した時代に国籍にいちいち、こだわるのはおかしい」と、一人はいいます。「国際化が進み、海外で生まれる日本人、日本で生まれる外国人が増えている。国籍選択の手続きをきちんとしないでいる二重国籍者が80万人もいる。蓮舫氏だけをなぜ問題にするのか」とは、別の一人です。

政治家と一般人の国籍を同列に扱うな

私は反論します。「蓮舫問題は政治家、さらに首相なった場合の二重国籍がもたらす問題であり、国家間に紛争や対立が生じた場合、どちらの国、国益を代表することになるのかな」。私の友人たちのように、政治的公職者と一般人を同列に論じる人が多いですね。

外交官の場合、「外国籍を有する者は、外務公務員(外交官)になれない」(外務公務員法)のです。企業では、国際化が進み、外国人を積極的に採用するようになったのと訳が違います。外交官の場合、国益が絡む案件の処理が仕事であり、原則として、日本国籍者だけを採用します。首相や閣僚も国益絡みの交渉に当たることが多く、二重国籍者はまずいですね。

「そんなに問題ならば、なぜきちんと取り締まりをしてこなかったのか」と、これは鋭い指摘です。国籍に絡む関係法律の規定があいまいだったり、罰則がなかったり、義務が努力義務であったり、ですね。法令に違反しても、厳しく追及できないか、しない背景があります。友人たちの指摘はもっともで、法律改正をする必要があります。

「国会議員の場合、衆院は日本国民で満25歳以上、参院は満30歳以上」(公職選挙法)だけとあり、外国籍者(二重国籍者)を排除すると明記していません。さらに「首相は国会議員の中から指名する」(同)とし、首相の国籍規定には直接、触れていません。ただし、日本の国籍法は一定の年齢(満22歳)までに、国籍の選択をするよう求めていますから、つまり国会議員になろうとするなら、それまでに日本国籍だけを持つ。さらに首相はその中から選ぶのですから、日本国籍者だけがその資格を持っていることになります。

政府にはうやむやにしてきた責任

国籍問題はきちんとした説明、解釈を聞かないと、理解しにくいのですね。それで蓮舫問題にはモヤかかっているような感じなのですね。戦前に朝鮮半島から連れてこられた人たちも日本に多く、国籍離脱の手続きは面倒なので放置している人は相当数にのぼるでしょう。実際問題として、国籍規定を厳格にできない理由の一つでしょう。

私は「首相を目指す公党代表が虚偽の釈明を続けてきたことにも、問題がある」といいますと、友人たちは「それを黙認してきた政府がおかしい。そんな人物を代表に選んだ政党がおかしい」と反論します。そうでしょうね。法相は「蓮舫氏は国籍法上の義務には違反していたことになる」と、国会で発言しています。なぜこれまで放置してきたのか。本音は、この問題をうやむやにしておきたかったのでしょう。

蓮舫氏は二重国籍問題が発覚し、当初は「私は生まれながらの日本国民」とか、説明していました。認識が甘かったのか、国籍に対する意識が薄かったのでしょう。言い訳が通らなくなると、やっと日本国籍の取得(選択宣言)、および台湾国籍の喪失の手続きをこの9月か10月にしました。現在は少なくとも日本国籍は持っており、その間、蓮舫氏は違法状態だったのです。民進党幹事長の野田氏も「説明ぶりに一貫性がなかった」と、述べています。蓮舫氏もうやむやにしておいて逃げ切るつもりだったのでしょう。

民進党に厳しい安倍政権にも、積極性が感じられません。やっかいな問題が連鎖的に浮上しかねませんからね。新聞も消極的ですね。欧米ではテロ、移民、難民問題に頭を抱えています。そのためにも、国籍の厳格な管理が必要になってきていますね。国籍管理なしにテロ、不法移民対策はできません。まず首相の芽はない蓮舫氏の問題よりも、本当はこちらのほう重大だと思います。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年11月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。