IEAエネルギー長期展望2016

昨11月16日、IEAが「World Energy Outlook 2016」を発表した。

今朝読んだ日経電子版は「パリ協定達成へ『8,200兆円必要』IRA見通し」という見出しを付けて、その内容を報じている(2016年11月16日23:14)。一方、日経の傘下にあるFTは ”Oil demand will grow for decades, IEA says”というタイトルをつけ、IEAの当該報告と共に、発表に先立つビロル事務局長のコメントを紹介している。またFT記事には“Paris accord and electric cars will not stop consumption rising until 2040”というサブタイトルをついている。

同じ「IEA報告」を伝える記事なのだが、受けとめる記者によって重点の置き方がかくも異なるのか、という興味深い実例だろう。

ここでは、筆者の興味にしたがい、FT記事の要点を紹介しておこう。

・仮にパリ協定が完全に実行されたとしても、石油需要は何十年も増加し続けるだろう、とIEAは予測した。ビロル事務局長は「需要ピークは見えていない」「石油需要の伸びはこれまでよりもゆったりとしたものになるが、引き続き増加し続けるだろう」と語った。

・IEAのこの見方は、石油がいつまで支配的なエネルギー供給源として残るのかという議論に火をつけることになろう。この疑問は、情勢変化に直面している石油会社が苦闘を続ける中、投資家たちの関心を集めることになろう。

・先週発表されたOPECの長期展望では、もしパリ協定が完全に実行され、自動車用燃料が(電気などに)代替されるとしたら、15年以内に石油需要はピークを迎えるかも知れない、としていた。

・最近シェルも、5年から15年以内に石油需要のピークが来るかも知れない、と言っていた。

・格付け会社Fitchは、電気自動車が急激に増加すると、石油会社に否定的な脅威を与える、と警告している。

・だがビロル事務局長は、IEA報告のメインシナリオにあるように、電気自動車が昨年の130万台から2040年に1億5,000万台に増加しても、道路輸送(road freight)、航空輸送および石油化学など、石油からの代替が困難な分野での需要増が大きく、全体として需要は伸び続ける、としている。

・IEAは「各国政府による気候変動対応の誓約を集めても、向こう何十年も石油ガスがエネルギー供給の基礎をなす」としている。

・ビロル事務局長は「現下の課題は、需要ピークではなく新規生産に繋がる投資が不足していることだ」と言う。おそらく来年まで3年間連続して資本投資が減少することは史上初めてのことで、これが近い将来、供給不足とその結果としての価格高騰を招くかも知れない、なぜなら毎年消費している埋蔵量を埋め合わせるためだけでも、2年間でイラクの1年分の生産量見合いの追加が必要なのだ、と。

・シェールオイルにより、米国は2040年までに輸入が不要となるかも知れないが、世界全体では先月、過去40年間で最大の35%だった中東への依存度がさらに増す、とIEAは指摘している。

・IEAもいくつかの異なったシナリオを提示している。先週発表されたOPEC報告のメインシナリオでは、石油需要は増加し続けるとしているが、IEA報告と異なり、パリ協定が完全に実行されることは前提においていない。

・パリ協定は、世界最大の温室ガス排出国である米国と中国により先月批准されたが、トランプが次期大統領に当選したことにより、米国がコミットし続けるかどうかは疑問符がついている。

・ビロル事務局長は、米国が支持する前提で、パリ協定が完全に実行されても気温上昇を最大2度に抑えることは困難だ、という。IEAは、この目標を達成するためには、脱炭素化とエネルギー効率化の技術発展のペースを大幅に上げることが必要で、もし実現できるとすると、早ければ2020年にも需要はピークを迎えることになる、とも付記している。

・さらに大胆な気温上昇最大1.5度の目標を達成するには、現在判明している技術や脱炭素化のための政策措置を含め、極めてラジカルな行動が必要だとしている。

石油需要のピークがいつ来るか、という問題は、石油会社や産油国にとって死活的問題だ。供給側代表のOPECは、気候変動への対応次第ではピークが来るかも知れない、と指摘し、需要側代表のIEAは、石油以外では代替が困難な消費分野があるから、パリ協定が完全に実行されても2040年までにピークを迎えることはないだろう、と予測している。

はてさて、来年初めには発表されるBPおよびエクソンの長期展望ではどう予測するのだろうか。今から興味津々ですね。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年11月17日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。