「北大使館の中は暖房もなく、寒い」

長谷川 良

駐オーストリアの北朝鮮大使館(金光燮大使)で先日、「オーストリア・北朝鮮友好協会」関連の集まりがあったが、そこに参加したオーストリア人の話によると、「大使館の部屋は暖房が切ってあったのか、とても寒かった」という。

海外の北朝鮮大使館は平壌から送金が途絶えているところが多く、自給自足を強いられていると聞いていたが、大使館内の暖房を節約せざるを得ないほど金欠状況が深刻だとは考えてもいなかった。

ウィーン北朝鮮大使館

▲雪化粧の北大使館、今年の冬の暖房は大丈夫?

今年に入り、駐ロンドンの北大使館のテ・ヨンホ公使夫妻が韓国に亡命し、平壌を震撼させたばかりだ。金正恩労働党委員長は海外駐在外交官の監視を強化し、家族関係者を帰国させるなど対応をとってきている。同時に、大使館の活動資金は送金されなくなったというのだ。

例えば、ウィ―ンの場合、金光燮大使が故金日成主席の娘婿で、金正恩労働党委員長の義理の叔父に当たるから、最低限の送金はされていると考えてきたが、そうでもないようだ。駐チェコの金平一大使も金光燮大使の家庭と同様、故金日成主席の息子ということから特別扱いと久しく考えてきた。だが実際には、平壌の中央政界から追放された金平一大使や金光燮大使にとって、これから文字通り、生存の危機を迎えることになるのかもしれないのだ。

海外駐在の北朝鮮外交官夫人が現地の中国レストランで働いている、という情報が流れていた。外交官夫人は本来、駐在先で働くことはできないが、大使館維持のためにはやむを得なくなったのかもしれない。しかし、脱北対策で外交官夫人の帰国が強行されたならば、誰が大使館維持費を賄うのだろうか。

今年に入り、ブルガリア、ドイツ、オーストリアの北大使館が売りに出されるのではないかといった情報が流れた。当方が調査した限りでは、ウィ―ンの北大使館の場合、目下、売りに出されていない。ただし、郊外にある金光燮大使の私邸(2階建て、庭付き)が売りに出される可能性は排除できない。ウィーンの北大使館の建物は歴史的建物としてさまざまな制限がある。それだけに、新しい買い手を見つけ出すのが至難という事情がある(「北大使『大使館は売らない』と言明」2016年10月2日参考)。

ウィーンはここ数年、雪が降らないなど暖かい冬が続いたが、今年は厳しい冬が到来すると予想されている。早朝は既にマイナスで、日中も5、6度程度だ。本国からの送金が途絶え、大使館の部屋の暖房もない状況が続くならば、海外駐在北外交官の脱北は今後も増えるのではないか。

先述の友好協会関係者は「最近赴任した若い3等書記官はやる気がまったくない。話しかけても生半可な答えしか戻ってこない」と嘆いていた。金がなく、寒い部屋で職務をしなければならない北外交官がやる気を失ったとしても当然かもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年11月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。