ミスコン中止で揺れる慶大・三田祭、「模擬店大成功」の学生たちがすごい

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慶應義塾大学の三田祭に行ってきた。なんせ今年は、広告学研究会の不祥事によりミスコンが中止になったことが話題になっているのだが・・・。そこには若者たちの情熱がほとばしる時間、空間が広がっていたのだった。レポートしよう。

「娘を慶大に連れて行ってほしい」

妻のお姉さまからの依頼があったのは数週間前だった。姪っ子は16歳のJK。これまで、明治、立教などを高校の企画で見学に行ったそうで。まだ絞り込まずに、幅広い大学を見て欲しいということから、慶応出身の私の妻に依頼がきたのだった。熟女から塾女への直談判。ちょうど三田祭シーズンなので、そこに連れて行き、相談にのることに。

名物のミスコンが今年はないということを説明するのには、ドリフを見ている時にぽろりがあったときにどう対処するか、「ママ、子供ってどうやって生まれるの?」と無邪気に聞かれた時にどうするか並みに神経をすり減らすものだった。子供はまだいないが、大人の世界のことをマイルドに伝える良いトレーニングになった。

その上、慶大を見学に行く途中の車内で、姪っ子は「いまは、津田塾を第一志望に考えている」と言い出し、津田塾について語らせたら止まらない一橋生の血が騒ぎ。高校生が受験で気にするポイントはスルーし、いきなり「どのテニサーには顔セレクションがあるか」「どのサークルはちゃらいか」「一橋大生の中で彼女以内歴=年齢というクラスタには気をつけろ」など、どうでもいい具体的な話から入ってしまい。申し訳ないことをした。

というわけで、そうこうしているうちに大学に到着。ラッキーなことに駐車場もすぐ見つかるの巻。よかった。賢そうな、全然ゆるくないゆるキャラとパチリ。

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慶大の三田祭に行く件をSNSにあげたら「ミスコンがない中、盛り上がっているのか?」という声が多数だった。個人的に、塾生のエネルギーはその分、バンド演奏に向けられたと解釈している。この三田祭オフィシャルソングを歌うバンドの演奏には沢山の人が集まっていた。この混沌とした状態で、三田祭を迎えることの複雑な感情が演奏にぶつけられ、マイクロフォンに切り裂くようなLyricが叩きつけられ、それに塾生は心身をゆだね、拳を振り上げる。

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この女性ボーカルバンドのライブは、暴動寸前の盛り上がりだった。このように拳を振り上げ、観客を扇動するボーカル。まるでテロの首謀者、完全なる核心犯だ。学生たちは前の方に押し寄せ、モッシュの嵐。「かわいい」「ついていくぞ」など怒号のような歓声が湧き上がる。いかにもサークル内の事情なのか、キーボードもギターも2人いる編成には、早くも大人の事情を感じたが、こうやって慶大生は現実社会を学んでいくのだろう。

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アイドルライブも行われていた。こちらも、一緒に踊るもの、ジャンプするものが多数。アイドルたちの練習を重ねた末の、バラバラな揃っていない振り付けに、個々人の個性を尊重する慶応の学風を感じた次第だ。母校一橋の同調圧力と、それを振り切るためにはプロレス研究会にでも入って、奇行を繰り返し突き抜け続けるしかなかった学生時代を思い出した。

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そういえば、プロレス研究会の興行も行われていた。OB同士が、なぜかセーフティーガードをした上でボクシングで殴り合うという、ここでも複雑な怒りをぶつけあう展開が。教科書通りでないフォームの死闘に心をうたれた。なお、この後、本物のケンドー・カシンが登場したらしい。

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しかし、これらはまだ序の口。個人的なハイライトは模擬店だった。就活生が面接でアピールしそうな「模擬店を大成功させた」武勇伝が、その場で展開されていたのだ。しかも、高度なレベルで。

まず、店名が笑える。

「鳥の名は」
に・・・。

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「シン・ピタサンド」
だ。

安易な、いや、失礼、流行を積極的に取り入れた店名。考えさせられた。

しかし、店の名前よりも学生の営業力に感心した。今まで行った学園祭では体験したことのない、プロ顔負けの営業トークが、そこにはあったのだ!

「ウチは注文を受けてから、お作りするんです。作り置き、一切やってません!」
「砂肝を出す焼き鳥屋なんて、三田祭全体を見渡してもウチくらいっすよ」
「ご覧ください、ウチは2年連続で三田祭のコンテストで勝っている店なんです」

迷っていると
「今日なら、120円を100円にしますよ。今がチャンスです」
と追い詰める。

まるで新人営業マン並みではないか。

恐るべし!

いや、就活の研究を長年行っているのだが・・・。

就活の「学チカ(学生時代に力を入れたことの略)」において「学園祭で模擬店を大成功させた」はよくあるネタである。

しかし、このアピールは、よく出来ているものと、筋の悪いもので2極化してしまう。
ダメなパターンは
「単なる楽しくて美しい思い出話」
で終わってしまいがちだ。
模擬店をして、楽しかったです、的な話だ。
たいてい、こういう学生のKPIは「みんなの笑顔」レベルで終わっている。

一方、「そんなドラマチックな模擬店、あるのかよ?」という「学園祭模擬店プロジェクトX話」というものがある。

戦略性、着眼点、創造力、斬新さ、企画力(たとえば流行を取り入れたか、など)
だけでなく
いかにPDCAサイクルをまわしたか(顧客の反応をみたトーク開発などもここに含まれる)
人を巻き込んだか(模擬店でいかにもやる気のなさそうなスタッフも見かけたが、彼らをいかにやる気にさせたかなどもアピールポイント みんなに納得してもらった、とか)
目標を高いレベルで達成したか(しかも笑顔だけでなく、売上、影響力、顧客や周りの評価などの指標で効果測定)
それで個人と組織、まわりの学生社会がどう変わったか(今年ならミスコン中止の閉塞感を吹き飛ばしたアピールなんかがありそう)
などを劇的に語る。

さらに、この経験を会社と社会でいかに活かすかをアピールする。

その上、「これは学生時代の経験で、プロの世界でそのまま通用するとは思いませんが」と謙遜してみせた上、さらなる成長を目指すと宣言。

これが就活における「学園祭模擬店プロジェクトX話」の真髄だ!!!!!!

もっとも、見渡してみると、出来ているサークルと、そうではないところがあり。

個人的には、「◯◯研究会(ゼミ名な)って、何をやっているところですか?」と聞いた時の「ウチのゼミ、知らないのか、名門だぞ」的な不愉快な表情と、「お父さんは~」的な感じで私を親父扱いした(そう見えるけどな)女子学生には怒り心頭だったが。

これもまた、社会の縮図だった。

まあ、就活のアピールとか、ミスコン中止とかあまり考えずに、普通に楽しそうだったけどね。

いや、本当、心技体を総動員し、人を楽しませようとし、自らも楽しみ尽くしている風でいい感じだった。

というわけで、普通の慶大生は元気で、安心した次第だ。

自由になれた気がした42歳の昼だった。

ありがとう。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2016年11月21日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた常見氏に心より感謝申し上げます。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。