FTのEd Crooksが書いた記事の見出しを直訳すると「ダレン・ウッズはエクソンの執務室で待っている(Darren Woods waits in ExxonMobil’s wing)」(2016年11月21日3:00sm Tokyo time)」となるが、これでは日本の読者には分からないだろう。記事が言わんとしていることは弊ブログのタイトルの通りだ。
ダレン・ウッズとは、昨年12月に、次期最高経営者(chief executive in waiting)のポジションとみなされているエクソンのPresidentに任命された人物である。テキサスA&M大学で電気工学を学び、ノースウェスタン大学でMBAを取得し、エクソンでは精製部門と化学品部門を歩んできたことから、昨年の任命時には「エクソンはしばらく低価格が続くとみて、石油開発部門ではないダレンを次の最高経営者にするつもりだ」と評価されていた。
この記事は、単にエクソンの社内人事の話ではなく、業界の最高峰にあるエクソンが立ち向かわなければならない課題を取り上げることにより、石油業界全体が直面している問題を指摘しているところに特色がある。
ブログページに字数制限があるので、筆者の興味にしたがい、要点を取捨選択して次のとおり紹介しておこう。
・2006年からこの地位にある現在の最高経営者であるレックス・ティラーソンは、来年3月に定年内規である65歳を迎えるが、前任のリー・レイモンド(1993年から12年間、会長兼最高経営責任者)の時のような取締役会からの「2年間延長要請」は来ていない。
・ダレンの最高経営責任者への航海は平穏だろうが、就任後は、低価格により減少したキャッシュフローや、生産量および保有埋蔵量の落ち込み、さらには気候変動に関する会社発表の妥当性についての法務闘争(legal battle)などの困難が待ち受けている。
・「エクソン・バルデス」事件以降に確立され、他社が真似までしているエクソンの経営の秀逸性は、たとえばパプアニューギニアのLNGプロジェクトを計画より早く2014年に立ち上げたことで証明されている。ライバルたちは価格下落に遭遇し、同じようなプロジェクトの推進遅延やキャンセルを余儀なくされている。
・だが戦略的にはいくつかの問題がある。レイモンドには(ライバルであった)モービルの吸収合併という勲章があり、カタールの巨大な天然ガスなどの資産を手中に収め、卓越したリーダーシップで目覚しい成功に導いたという実績がある。レイモンドの時代には油価が上昇したこともあったが、株主利益率は440%で、同期間のS&P500が266%だったことと比べても素晴らしいものだった。だがティラーソンの時代は104%で、S&P500が120%だったことと比べると見劣りがする。着任時に60ドルだったブレントが先週金曜日には47ドルだった、という事情もあるが、株価はシェブロンの後塵を拝している。
・ティラーソンは、2009年にXTO Energy(シェールガスの大手企業)を410億ドルで買収したが、ガス価は爾来40%下落している。またカナダのオイルサンド生産会社であるKearl Oilを215億カナダドル(約160億米ドル)で買収したことも失敗だと批判されている。エクソンは先月、昨今の油価動向に鑑み、これらオイルサンドの保有埋蔵量がSEC基準に照らし「economically producible」ではないとして、年末の評価では保有埋蔵量から外すと警告している。この結果、エクソンは2年連続で保有埋蔵量を減少させることになろう(昨年の事例については、弊ブログ#147「エクソンも22年ぶりに保有埋蔵量減少へ」(2016年2月20日)参照)。
・気候変動に関する発表をめぐるNY州検事総長による捜査は、エクソンの資産及び保有埋蔵量の情報開示にまで及んでおり、後者に関してはSECも調査を開始している。
・エクソンは、2016年末の保有埋蔵量の見直しは、社内ルールに基づいて技術的に行っているもので、捜査・調査とは無関係で、生産量やキャッシュフローに影響をあたえるものではなく、また地下に保有する石油ガスはそのまま存在している(価格が戻れば保有埋蔵量と認識できる)としている。
・1月31日に発表予定の4Q決算に含まれる巨額な償却は、需要の伸び率が鈍化している中で繁栄を維持できるのか、あるいは低コストの中小のシェール業者との競争に勝てるだろうか、という根本的な疑問を投げかけている。
・エクソンは依然として卓越した経営能力と強靭な財務体質を持っているが、あたかも巨大なタンカーのように簡単には方向転換ができない。投資家たちは、ウッズが航行制御不能に陥らせないことを望んでいる。
むむむ。
需要ピークを巡る予測・議論とともに、スーパーメジャーの経営は業界にとって重要な問題だ。
別ブログで紹介するつもりの記事のように、石油開発事業においてコスト削減が急激に進んでいることもあり、資本投資の再開が噂されているが、果たして石油ガス業界はどのような新年を迎えることになるのだろうか?
11月30日のOPEC総会が当面の試金石だな。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年11月21日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。