各方面に激震をもたらしているトランプ次期大統領ですが、今度はオバマ大統領の政策の目玉だった太陽光発電で、カリフォルニア州とガチバトルに突入しそうな雲行きです。「炭坑のカナリア」、太陽光パネル製造大手のファーストソーラーのナスダック市場での株価指標は、市場最高値を付けた上げ潮ムードの市況に逆行し、僅か2週間余で3割も暴落しています。(40.58ドル(11月2日)から29.21(18日))
気候変動緩和と経済成長を共に達成するという高邁なグリーンニューディール政策を打ち上げたオバマ大統領は、二酸化炭素を排出しない太陽光発電を過去8年間プッシュしまくりました。連邦政府は、太陽光発電導入コストの30%を税金で還付するInvestment Tax Credit (ITC)を導入していて、5kWの実売価格は過去5年で半額の150万円程度にまで下がっています。
それに呼応したのが意識の高いブルーステイトの雄、カリフォルニア州です。2015年1月に就任したJerry Brown知事は、就任式で「2030年までに再生可能エネルギー電力の比率を50%に高める」という目標を発表しました。意識の高いカリフォルニアの人々は、家の屋根に太陽光パネルを設置して、エコ・ライフへの転換に励みました。その結果が下のグラフです。
これは、2012年から20年の3月31日の電力会社のロードカーブ(需要曲線)(実績と予想)を表したものです。ご覧頂くと一目瞭然ですが、毎年午前9時から午後4時にかけて、需要がえぐり取られていくのが分かります。太陽光自家発電を使用するからです。一方で、灯りをともして一家団欒する夜の需要は減りません。なぜなら、太陽が照らないから発電できないからです。このように昼の需要が極端に下がって、夕方から夜にかけて上がっていく形はまるでアヒルのようなので業界では、「ダックカーブ」と呼んでおります。
電力会社は困っています。電気は基本的に貯められないので、夜の2時間程度のピークにあわせて発電所を建設する必要があります。しかし、昼間は需要が最大半分以下になりますので、多くの発電所は22時間止まっていて、2時間だけ運転するといういびつで非効率な状況です。また、アヒルの背中の角度、すなわち夕方の電力需要の急速な立ち上がりは毎年急になっていくので、周波数や電圧を一定に収めていくのには技術的に大変難しくなっていきます。その結果、何が起きるのでしょうか?それは非効率性が高まることによる電気料金の値上げです。
自宅に太陽光発電を導入した家庭は自分で決めた結果なので納得もできましょうが、パネルを買ったり、据え付ける屋根がない貧困層はたまったものではありません。ITCは支払った所得税の控除還付金なので、もともとそんなに税金を納めていない人は恩恵を預かれません。しかも、太陽光発電を導入した家庭には、さらなる特典があります。それはNet Metering Policyといって、日中の発電量が、自家消費量を上回った場合は、それを小売り価格で電力会社に買い取ってもらえるのです。でも、ダックカーブの一番底で、電力を受けっても殆ど価値がないので、電力会社はその分負担増となり、これも貧しい人にしわ寄せがきます。
ですから「家に太陽光発電を持つ人=富裕層」と「持たざる人=貧困層」の間に深刻な格差・分断が発生し、これが当地で深刻な論争を巻き起こしています。広いアメリカでは、州によって、電気料金の水準が違います。料金の高い州は、(1)電気料金が高い>>(2)儲けが生まれる太陽光発電を導入する家庭が増える>>(3)電力会社の需要曲線(ダックカーブ)の傾きが高くなってコストが上がる>>(4)さらに電気料金が高くなる>>(5)さらに儲かる太陽光発電をますます導入する、という好循環?悪循環?が発生します。このサイクルに入る州とそうでない州の格差が顕著になります。
下の表は、太陽光発電を導入した20年の儲かり具合で、何年でコストを回収できるかの州別ランキングです。
最も有利はのはオレゴン州で、3年で元が取れます。ワシントンが2位、ボストンのあるマサチューセッツが3位、ニューヨークは6位、ロサンゼルスやサンフランシスコは8位、9位です。皆様おわかりでしょうか、この政策の恩恵を受けているのは、民主党の強い都会型の州「ブルー・ステイツ」で、共和党の強い農業地帯の州「レッド・ステイツ」は蚊帳の外です。当然、トランプ氏の格好の標的となります。
トランプ氏は、政権移行チームのエネルギー担当に、Myron Ebell氏を選任しました。Ebell氏は、「そもそも気候変動問題など存在しない。環境原理主義者のでっち上げだ。太陽光発電の導入促進は犯罪的だ。」という強硬な主張の持ち主です。そこで、市場では、30%税金還付のITCをトランプ次期大統領が骨抜きにするのではないかという不安が高まっていて、ファーストソーラーの株価暴落を引き起こしている訳です。
しかし、コテコテの環境原理主義、カリフォルニア州も一歩も引かぬ構えで、がっぷりよつの横綱相撲が見込まれています。今後とも、目が離せないトランプとブルーステイツのガチバトル、私はその動向をブログで皆様に報告していきます。