通販を止めて売上2倍に。ブランド力を向上させる秘密?

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写真:ケンズカフェ東京にて撮影

中国で「独身の日」に当たる11日、電子商取引大手アリババ(阿里巴巴、Alibaba)は、自社通販サイトで日付が変わってわずか5分で売上額が10億ドル(約1000億円)を超したことが大きなニュースになった。

いまや通販は小売業界を席巻しつつある。ショッピングモール、アウトレット、ファストファッションの拡大は、消費意識が安価で利便性にシフトしていることを物語っている。これらの要因が相まって通販の拡大を後押ししている。

通販は、成功するための魔法の杖のように称されることが多いが、通販をやめたことで、売上とブランド力が強化される場合がある。ケンズカフェ東京(新宿御苑前)、氏家健治シェフのケースである。

実際、同店は自社通販サイトを休止して2年程で、売り上げは約2倍となった。店舗でしか買えないという希少性もあり、日本全国から客が訪れるようになり、メディアからの取材依頼が増えた。商品のありがたみがいかに大切かを物語る例ともいえる。

同店のガトーショコラは、フジテレビ「有吉くんの正直さんぽ」、TBS「ランク王国」、日本テレビ「ヒルナンデス! 」「おしゃれイズム」「嵐にしやがれ」などで紹介されたことがあるので、ご存知の方も多いことだろう。

■通販の特性をもっと理解すべきだ

―まずは、通販という業態の特徴を整理してみたい。消費者と直接対面せずにネットによる注文で取引を完結させるのが通販の特徴である。しかし、通販にはメリットとデメリットが存在することを知らなければいけない。

「私の著書『1つ3000円のガトーショコラが飛ぶように売れるワケ 』にも書きましたが、当社のネット通販への取組みは早かったように思います。最も多い時期では、売上げの7割を通販で計上していた時期があります。立地の良い場所に店舗を出店しなくても良い。休日や天候に左右されず安定した受注が見込めることは魅力でした。」(氏家)

―消費者にとってもメリットは大きい。仕事をしていれば、平日は仕事で忙しく買い物に行く時間もない。通販なら店舗に足を運ばなくても、24時間いつでもどこでも買物ができる。

「直接、消費者と取引ができることも魅力でした。ところが、通販は運営手数料や送料・包装資材などの経費を支払うので、すべてが利益とはいえません。当初は堅調だった通販も、ケンズカフェ東京の売上が増えるにつれて利益率の問題が発生してきました」(氏家)

「当店の商品はガトーショコラ1種類です。お店には焼きたてのガトーショコラの香りが充満しています。それが堪らないといってくれるお客さまがいます。ところが、通販ではこのような雰囲気が伝わりません。」(同)

―通販では、氏家のように、「毎日焼きたてのこだわり、そのものを見せたい」という形態には合わないのかも知れない。

「通販に『日時指定や再配達』はつきものですが、国土交通省が再配達問題で環境対策に乗り出すなど課題もあります。この点で私たちの商品は必ずしも通販には向かないことに気がつきました。通販をやめることで遠方のお客さまに商品が行き届かなくなりますが、商品の安全・品質維持も考えて通販をやめることにしたのです。」(氏家)

「さらに、通販は広告の投下量に応じて売上が左右される場合があります。当社のような形態の場合、一気に注文が来ても対応しきれません。1日で焼き上げることができるガトーショコラの本数には限界があるからです。」(同)

■理不尽なクレームが起こりやすい通販

氏家は、万が一、届けられた商品に瑕疵があれば、ブランドを毀損しかねない重大な問題になおりかねないことも通販をやめた要因に挙げている。

対面での販売と違い、心の通じ合いが弱くなりがちな通販は、ちょっとしたことでもクレームとなりやすい。商品到着の遅れや配送箱の汚れ等で、大クレームを受けることもある。

SNS、クチコミ・レビューでの批判を恐れ、そうしたクレームで商品を無料にしてしまう通販業者もあり、理不尽なクレームを誘発している面も否めない。再配達問題とならび通販業者の悩みといえよう。

尾藤克之
コラムニスト

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