全然話題になっていませんが、地味に大切な法案が参議院を通過しました。
「特別養子縁組あっせん法案」(正式名称「 民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律案」)です。
虐待死の6割が0歳児
訴え続けていて耳タコかもしれませんが、2週間に1人、赤ちゃんが虐待で死んでいます。
虐待死の6割が0歳児です。
望まない妊娠と貧困、10代であること、夫に去られ相談できないというような社会的孤立、または親の鬱や精神障害等の要素が重なり、赤ちゃんの遺棄に繋がっていきます。
そんな悲劇を防ぐため、頑張っているのが赤ちゃん縁組団体。妊娠期から相談に乗り、赤ちゃんが生まれたら、養親さんに託す手助けをします。法的には、「特別養子縁組」という制度を活用します。
赤ちゃんの虐待死を防ぐために鍵になるのが、この特別養子縁組団体なんです。
特別養子縁組支援に補助ゼロの実態
でも、特別養子縁組を支援する団体(行政的には嫌な響きですが「あっせん団体」と言います)には、何の補助もありません。なので、皆さんボランティアの気持ちで頑張っているのですが、団体の継続はとても難しいです。
(フローレンスも特別養子縁組支援事業をしているので、本当に苦しい、ということが身をもって分かります。)
人の一生を左右し、赤ちゃんの命に関わるので、社会福祉士等が丁寧に関わらないとダメなのですが、その分人件費もかかり、そこを埋めようとすると、育ての親の方からある程度まとまったお金を頂かなくてはなりません。(80万~200万円)
そうすると、育ての親の方の負担も大きくなってしまうわけで、児童福祉の最後のセーフティネットであるにも関わらず、政府は完全に放置してきたわけです。ここは、保育所や学校同様に、補助金による支えが不可欠です。
トンデモ団体跋扈に許可制を
さらに、特別養子縁組のあっせんが、「届出制」で、法的には誰でもできてしまうことによって、様々な弊害が出ています。
先日千葉県にある団体「赤ちゃんの未来を救う会」が事業停止命令を受けました。この団体では、育ての親候補である夫婦に、「100万円を先に支払えば優先的に赤ちゃんを委託する」として、まだ委託が発生していないうちから金銭を要求し、受け取っていました。
また、大阪にある別の団体では、「インターネット赤ちゃんポスト」と謳ったアプリ上で、生みの親と育ての親をマッチング。双方への面談やカウンセリングを大幅に省略したあっせんを行っています。本来、養子縁組のあっせんは、生みの親に安易に養子縁組を勧めるのではなく、丁寧にカウンセリングを行っていく必要があります。また、子どもの受け入れ先となる育ての親も、人の一生の託す訳ですから、しっかりと審査し、その子どもに合った家庭を、団体が責任を持ってマッチングせねばなりません。
こういう、倫理を欠いた事業者をキックアウトしなくてはなりません。そのためには「許可制」が必要で、一定の基準をクリアした団体が許可され、あっせんを行えるようにし、違反したら許可を取り消す、という仕組みによって、健全性が保たれます。
あと一歩だが、衆議院は波乱の予感
この、「許可制」と「補助」の組み合わせを実現するのが、「特別養子縁組あっせん法案」です。参議院を通過し、あとは衆議院通過を残すのみとなりました。あと一歩です。
ここまで頑張ってくださった、超党派の議員の皆さん(自民党野田聖子議員、木村弥生議員、塩崎やすひさ議員、公明党遠山議員、山本かなえ議員、民進党田島要議員、初鹿明博議員、林久美子元議員等、他多数)には、心からの感謝を伝えたいと思います。
しかし、衆議院では年金法案によって非常に不安定な状況が続いています。年金法案の議論で与野党がぶつかり合い、強行採決になったら、一挙に国会は空転し、議員立法の採決などはできなくなってしまいます。
ですので、ここで最後の国民の後押しが必要です。国会でどれだけ喧嘩しても良いから、必要な法案を通してほしい、という国民の声が必要です。
赤ちゃん虐待死ゼロに向けて、この法案実現が、強調してもしすぎることのない重要な一歩となるのです。皆さん、ご協力をお願いいたします。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2016年11月24日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。