アゴラ執筆陣の一人である、上田令子都議(かがやけTokyo)がきょうのお昼のフジテレビ「バイキング」にスタジオで初出演する予定だそうだ。
「ついに上田さんもテレビ進出か」と感じた次第だが、それにしても「政治とメディア」を語る上で2016年の特徴を挙げるとすれば、おときた駿都議を筆頭に都議会議員が続々とテレビ出演をするようになったことだ。12月発売の拙著「蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?」(ワニブックス)では、そのあたりの経緯も分析しているが、見落とされがちな問題について、ちょっと考えてみたい。
都議のテレビ進出を後押ししたネットメディア
先日、ほとんどテレビに出ていない某都議会議員と、そのあたりのことで意見交換をする機会があったのだが、テレビ進出が目覚ましい都議らについて「おときたさんや、塩村(あやか)さんはテレビ局の人たちとコネがあるからね」という見解を示していた。都議選まで半年余りとなり、ライバルたちの動向はそれなりに気になるところなのだろうが、私は、その意見については半分正解で、半分外れていると考える。
2年前のヤジ問題の被害者として、知名度が全国区になった塩村都議は政治家になる前にバラエティ番組への出演や、放送作家の経歴があり、コネクションがあるのも事実だ。ただ、やはり「悲劇のヒロイン」的なアイコンとしての注目のほうが大きく、ヤジ問題から2年経った今年も(※)「金スマ」等の娯楽番組に出てはいたが、本筋の都政や都議会という点で、都議のテレビ露出の機会を切り拓いたという点では、おときた氏の存在感のほうが大きいと言えるだろう。(※訂正28日9:50 塩村さんの指摘で今年ではありませんした。去年でしたね。失礼しました)
その、おときた氏は確かに周辺に広告PR業界の人がいるし、今でこそ「最もテレビに出ている都議会議員」になっているが、ヤジ問題の時の露出はやはり「ネット」の範疇にとどまっており、前述の都議が指摘するような「コネ」があるから出演が増えたとは言いがたい。局面が変わったのは、みなさんご記憶の通り、舛添前知事の金銭スキャンダルだ。舛添氏の開き直る様が、ワイドショーで連日、積極的に取り上げられるようになり、舛添都政の問題点を指摘する「解説者」として露出が増えた。
当初は記者やディレクターが都議会庁舎でインタビュー収録する形式だったのが、舛添氏が問題をこじらせて長期化させるに連れ、おときた氏がスタジオで生出演する機会が増えてくる。たしか5月20日、TBSの朝の情報番組「白熱ライブ ビビット」で、やながせ裕文都議(東京維新)と一緒にスタジオに出たのが最初だったと思う。
「ビビット」は私も録画での出演経験はあるが、私自身もそうだったように、おときた、やながせ両氏ともブログで積極的に発信していたことが制作スタッフの目に止まったのがきっかけだ。ワイドショーの現場スタッフは、都庁クラブの記者たち以上に、ネタ集めのとっかかりでネットを積極的に活用している。アゴラやブロゴス等のネットメディアに転載された都議たちのブログを読み、舛添氏のスキャンダルの急先鋒だった2人に声をかけたようだ。
ついに「朝生」、クイズ番組にまで進出
ネットメディアへの転載は個人ブログよりもグーグル検索にひっかかりやすく、スマートニュース等のキュレーションアプリでも掲載されやすい。ネットをあまりやらない世代の都議はブログをやっていても記事の更新が数か月に1度というのも珍しくないが、おときた氏は毎日ブログを更新し、舛添問題の折はやながせ都議も連日投稿。積極的な発信がテレビ出演のきっかけにつながった。
その後、舛添氏が辞任した後も、日本最大のテレビ選挙である都知事選が勃発。加えて、小池百合子氏という政界屈指のテレポリティクスの使い手が出馬し、当選したことで、小池都政を巡る「語り部」としての都議のテレビ露出が一層増えていった。クイズ番組にまで出るようになった、おときた氏は別格として、やながせ氏、共産党都議団幹事長の大山とも子氏あたりは、視聴者の顔なじみになりつつあるだろう。小池都政を取り上げた先月の「朝まで生テレビ!」では、おときた、大山両都議が出演した。
予算規模が中堅の国家クラスである日本の首都の行政を司る都議会といっても、これまでは他の地方議会と同じく、テレビの全国ネットで取り上げられることは基本なかった。バラエティ番組の出演については賛否が割れそうだが、かつては国政と区市政の合間の「中二階」と揶揄されるほど、一般人から実態が見えづらかった都議会の議員たちが、連日政治ニュースも取り扱う情報番組に顔を出すようになったことで、都政や都議会への関心が高まることは、都政関係者に良い意味での緊張感をもたらす効果はあろう。
都政・都議会の“語り部”不足という構造的問題
しかし、都議たちがこれほど「語り部」として引っ張りだこになっている要因についてはあまり論じられていないのではないか。おときた氏が特に露出している要因としては、テレビ受けする若さやしゃべりの機転、あるいは政党には無所属であることも大きいであろうが、一応「インサイダー」である。また、この間、小池氏と対峙している最大会派の都議会自民党からスタジオに生出演して反論する議員がいない。もちろん、番組側も出演オファーをしているが、どうやら断っているらしく、いまはおとなしくするという広報戦略上のことがあるにせよ、結果的には“欠席裁判” になっている側面もある。
では、本来なら「アウトサイダー」で、中立的に都政・都議会を解説する第三者が、テレビやネットメディアで存在感に欠けるのはなぜか。ひとつには国政ほど発信力のあるウオッチャーがいないことだろう。永田町では、時事通信の田崎史郎・特別解説委員や、伊藤惇夫氏らの政治評論家など人材は豊富だが、弁舌の巧みさ、わかりやすい解説力を備え、都政・地方行政を専門的に語れるのは、都庁OBの佐々木信夫・中央大教授(写真)くらいしかいない。時折、伊藤氏らが都政事情を解説している番組を見ると、病院当直の外科医が不在中の内科を「余技」で診断しているように国政の延長でコメントしている印象がある。
本来の“語り部”のポジションを奪われたのは…
しかし、都政・都議会のウオッチャーとしては当然、在京の大手新聞、放送全社が所属する都庁記者クラブがあるし、都政新報のような専門媒体もある。それなのに、存在感がない。いろいろな問題や構造的要因はあろうが、一部のベテラン記者を除くと、都政担当の記者たちの多くが、番組に連日出演している都議たちに成り代わって解説できるほどの勉強が足りないのではないかという疑念が浮かんでしまう。
なによりも長年、地方議会で「別格」であるはずの都議会が、ほとんど世間で注目されてこなかったのは、読者や視聴者に単に「伝える」だけではなく、「伝わる」ための報道のあり方について、見落としている部分も大きかったのではないか。テレビで「インサイダー」である都議たちが続々と出演している今日の状況は、都政の劇場化がきっかけとはいえ、なぜ「第三者」である都庁記者クラブの記者たちから「語り部」のポジションを奪っているのか。実は、既存メディアに問われている問題なのだ。
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民進党代表選で勝ったものの、党内に禍根を残した蓮舫氏。都知事選で見事な世論マーケティングを駆使した小池氏。「初の女性首相候補」と言われた2人の政治家のケーススタディを起点に、ネット世論がリアルの社会に与えた影響を論じ、ネット選挙とネットメディアの現場視点から、政治と世論、メディアを取り巻く現場と課題について書きおろした。アゴラで好評だった都知事選の歴史を振り返った連載の加筆、増補版も収録した。
アゴラ読者の皆さまが2016年の「政治とメディア」を振り返る参考書になれば幸いです。
2016年11月吉日 新田哲史 拝