【映画評】メン・イン・キャット

渡 まち子
NINE LIVES

仕事一筋で家庭を顧みないワンマン社長のトムは、妻のララから、翌日が幼い娘レベッカの誕生日だと言われ、娘がずっと欲しがっていた猫を贈ることを決める。路地裏にあるペットショップで猫を買った帰り、トムは、猫とともにビルから転落してしまう。意識が戻ったトムは、なぜか猫と身体が入れ替わっていた。ペットショップの怪しげな店長が言うには、元の身体に戻るには、家族にふさわしい夫、そして父親にならねばならない。家族にペットとして飼われたトム(猫)は、何とか人間に戻ろうと奮闘するが…。

人間と猫の身体が入れ替わり、大切な家族の絆に気付くファンタジー・コメディー「メン・イン・キャット」。軽いコメディーだが、オスカー俳優の名優ケヴィン・スペイシー、同じくオスカー俳優のクリストファー・ウォーケンら、意外なほど豪華な演技派が顔を揃えている。大人と子供、男と女、人間と動物などが入れ替わる話は、演じる役者の演技力が求められるため、実は佳作が多いのだが、本作で入れ替わるのは、中年男性と可愛らしい猫。見た目は可愛いが中身はオッサンという「テッド」系のギャップで笑わせる。空前の猫ブームの今、愛らしい猫が出てくるだけで観客の頬が緩みそうだが、Mr.もこもこパンツという名前の猫(中身はワンマン社長のトム)は、酔っぱらったり、懸垂したり、タブレットで新聞を読んだり…と、おやじ度MAXである。ストーリーは波乱万丈だが、基本的にハートフルな物語なので、安心感は抜群。ゴーマンな仕事人間だった主人公は、猫になったことで、家族の思いやりや優しさに気付き、人知れず悩んでいた息子を助け、会社乗っ取りを企む悪者社員をやっつける。面白いのは、カメラワークや美術で、すべて猫目線、つまり低い位置からの映像で、人間の意外な姿が垣間見える。猫のMr.もこもこパンツを演じるのは6匹の俳優猫で、ロシア産の長毛種のサイベリアンフォレストキャットという種類。ロシアのプーチン大統領が秋田県知事にプレゼントした猫として知られる気品あるシベリア猫だ。他愛無い作品だが、大の猫好きなので、猫が活躍する映画にはどうしても点が甘くなってしまう。我ながら困ったものである。
【60点】
(原題「NINE LIVES」)
(アメリカ/バリー・ソネンフェルド監督/ケヴィン・スペイシー、ジェニファー・ガーナー、クリストファー・ウォーケン、他)
(ニャンだふる度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年11月25日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterより)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。