【映画評】疾風ロンド

渡 まち子
疾風ロンド

提供・東映株式会社

大学の研究施設の違法生物兵器「K-55」が盗まれ、犯人から、全国民を人質に、身代3億円を要求するメールが届く。違法なので警察に届けるわけにもいかず、研究所所長は、中間管理職の研究員・栗林和幸に、秘密裏に奪還を命じる。猶予は4日間。栗林はひそかに兵器を探すがそんな時、犯人が死亡するというまさかの事態が起こる。大惨事を回避するため、隠された生物兵器を見つけねばならない。犯人の遺品とわずかな手がかりから、それが日本最大級の規模のスキー場のどこかに隠されたことを突き止める。スキー初心者の栗林は、パトロール隊員の根津やスノーボード選手の千晶らの協力を得ながら生物兵器を捜しはじめるが、そこには思わぬ事態が待ち受けていた…。

頼りない研究員が、盗まれた違法生物兵器の行方を追って奮闘するサスペンス「疾風ロンド」。原作は大人気作家・東野圭吾が17年ぶりの文庫描き下ろしとして出版した同名小説だ。多くの作品が映画化・ドラマ化されている東野圭吾だが、シリアスな社会派ドラマと、コミカルな娯楽作に分かれる。本作は後者だ。

白銀のスキー場を舞台に、中間管理職のサラリーマンの悲哀、息子と分かり合えない父親の切なさ、さらに無駄にテンションが高い雪上アクションと、なかなかバラエティーに富んでいて飽きさせない。サスペンス・コメディーなので、笑いの部分はユルユルなのだが、父と息子のドラマが実は味がある。いつも貧乏くじを引いてしまう頼りないダメな父親の栗林は、男手ひとつで息子を育てているが、サラリーマンの悲しさからついつい保身に走りがち。それもこれも、大事な息子のためなのだが、息子の方は、父が正義のために頑張る姿と、何でも話せる父子の関係を望んでいるのだ。

一方で、スキー場の根津と千晶の関係は、恋愛未満のもどかしさだが、雪上ですべりながらスターウォーズばりのバトルを披露する大島優子の思いがけない頑張りが光る。この人にアクションのイメージはなかったが、9歳からスノーボードをやっているそうで、雪上アクションを見事にこなしていた。監督が「サラリーマンNEO 劇場版(笑)」の演出を手掛けた吉田照幸と聞いて、本作の脱力系ギャグに大いに納得。緊張と緩和がほどよいウェルメイドな娯楽作だ。

【60点】
(原題「疾風ロンド」)
(日本/吉田照幸監督/阿部寛、大倉忠義、大島優子、他)
(アクション度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年11月28日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は東映提供)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。