11月FOMC議事録は12月利上げに布石、トランプ勝利後に注目

安田 佐和子

FOMC

11月1~2日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録は、声明文と同じく年内利上げに意欲を示しました。労働市場やインフレをはじめ、経済指標の改善を認め、12月利上げへ望みをつなげます。以下は、FOMC議事録の詳細。

▽利上げをめぐる協議
・ほとんど(most of )の参加者が政策金利の引き上に対し、比較的早く実施することが適切と判断。
・参加者は概して、利上げへの根拠が強まったと認識。

▽経済動向
・経済見通しは、前回とほぼ変化せず。
大部分(a majority of)の参加者は、短期的な経済見通しリスクが概して均衡と認識。
・何人か(a few)の参加者は、大いなる下振れリスクを予想。低い均衡実質金利とFF金利の水準の距離、海外経済の減速、BREXIT、一部の国での金融動向(中国?)の脆弱性が背景(ブレイナード理事とミネアポリス連銀のコチャラコタ総裁か?)。

コチャラコタ総裁、オバマ政権で元財務次官補を経験し2017年の投票メンバー。ハト派寄りで大手銀の解体を推奨。

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(出所:Federal Reserve Of Minneapolis)

米7~9月期GDP速報値を好感しつつ、農産物の輸出急増という一時要因だった可能性を指摘。
・スタッフは失業率につき低下を予想、2019年にかけ横ばいを予想。前回の横ばいから下振れから改善を見込む。
・スタッフは、引き続きGDPに下振れリスクがあるとし海外動向を挙げた。ドル高や原油価格の上昇も、成長抑制要因と指摘。
・スタッフはインフレが2009年に至っても目標値2%に届かないと予想、潜在成長率を上回る経済動向によって下押し圧力が相殺される見通し。

▽海外動向、金融市場
・海外諸国の経済成長は抑制されており、インフレは全体的に非常に低い水準
何人か(some)の参加者は、重要な海外下振れリスクを指摘。低金利環境での政策上の制約のほか、欧州の銀行セクターにおえる収益性の低下、BREXIT、中国での信用の伸び加速に伴う有害な影響、ドル高を挙げた。
・MMF改革により、投資家はプライムMMFから政府関連MMFへ資金を大規模にシフトさせ、同時にシャドーバンキングのシステムからのリスク減退につなげた。
・タームプレミアムや均衡実質金利の低下はFedのバランスシートの規模が背景にあり、インフレ上昇懸念後退と相俟ってしばらく続く可能性も。

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、ハリエット・トリー記者による「経済の耐性が12月利上げ見通しを強める(Economic Resilience Bolsters Prospects for December Rate Rise)」と題した記事を配信。米大統領選の結果が判明する前だったとはいえ、経済指標を背景に12月利上げの可能性が高いと報じた。

――大和キャピタル・マーケッツのマイケル・モラン米主席エコノミストが「unexciting」と評したように、想定の範囲内にとどまり12月利上げをほぼ確実とさせました。問題は、トランプ政権誕生を控えたスタンスの変化です。①インフラ投資拡大と減税で成長加速、②ドル高や金利上昇が与えるリスク、③エマージング国へ影響――をにらみながら、声明文や経済・金利見通しをどうシフトするのか。少なくとも米大統領選後のイエレンFRB議長による証言やフィッシャーFRB副議長の発言はバランスを保っており、成長・インフレ加速やその逆の動向にも対応できる体制を準備中です。さすが、ぬかりありません。

(カバー写真:Federalreserve/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年11月29日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。