このところ毎日のように、高齢者運転事故で若者や子供が犠牲になるニュースを見聞きします。いまや運転免許保有者の5人に1人、1650万人が65歳以上だそうです。加齢に伴う認知・判断能力の衰退には抗いようもないのですが、一方で人口減少・過疎化で特に地方では自動車がないと生活ができない切実なニーズがあります。一人暮らしの老人も増えています。
その対策として、政府やメディアは、免許返納を推奨しますが、運転能力に大きな個人差があるのに、年齢で一律に運転の権利を侵害することは、憲法違反の恐れがあります。強制的な返納は望めません。一方で、脱法ドラッグを使用しての運転など、遵法意識のない人が事故を起こすことも多く、個人の良心だけに頼ることもできません。ましてや、高齢者自身が能力の衰えを自覚していないという深刻な調査結果もあります。
一方で、AIによる自動運転技術の進展に期待する声が上がっていますが、実用化まではまだまだ時間がかかりそうです。そこで、この問題を解決するための具体的な提案があります。それは、周囲を走行している車に事故リスクの高いドライバーがいる場合、それを警告して事故を回避するためのアプリを歩行者の携帯するスマホに導入することです。
どんな人間でも運転をする権利が保障されるのと同じように、善良な歩行者にも、天下の往来では、周囲にどんな潜在的危険運転者がいるかを知る権利は保障されるべきです。ある人間の運転が危険であるということを断定して免許を剥奪することは難しいですが、年齢や事故歴、交通違反歴、視力・聴力などの情報をビッグデータで処理して、ある種の属性の人が、どのくらい事故リスクが高いかということを推認することは比較的容易です。
運転免許更新時に、例えばシミュレーターを使って客観的に数値化された運転能力のデータを取得します。道路を走る車とドライバーの情報をリンクします。これをGPSを使って地図アプリにプロットします。歩行者が持っているスマホアプリで常に周囲のリスクレベルが分かるようにする。リスクが高い自動車が近づけば、警報音が鳴る。こういったことは技術的にも、費用的にもそう突拍子もないことではありません。今のスマホに、30cmレベルで位置情報を把握する機能を装着することは簡単です。事故多発地点などといった定点情報と運転者の動点情報を組み合わせれば、さらに緻密なリスク管理ができます。
その実用化に際し、恐らく一番問題になることは、運転者のプライバシーの保護です。知る権利と知られない権利のバランスの確保は、道路安全に限らない大変根の深い課題です。しかし、天下の往来、公道で「走る凶器」を使用する権利を行使する以上、圧倒的に弱い立場の歩行者にある程度の個人情報が共有されることは受容されるべきと私は思います。もちろん、このシステムがあればひき逃げ犯は100%捕捉できます。また、歩行者だけでなく善良な運転者にとっても、周囲に危険な車がいないかどうかを知ることは当然の権利だと思います。
既に悲惨な犠牲者が続出している以上、行政はこの問題に真剣に取り組む必要があるでしょう。