世の中の多くの人はシェールオイルへの関心が高いようだが、現状シェールオイルは、世界生産の5%程度を占めるに過ぎない。信頼しうる機関や大手国際石油会社の長期予測でも、2040年に10%程度に増えるかどうかだ。在来型と呼ばれる伝統的な石油開発が主流であることは、今も、将来も、大きな変化はないだろう。
在来型の石油開発というものは、巨額の初期資金を必要とし、ビジネス・スパンが長いものだ。
このことを如実に示した事例を、FTのEd Crooksが書いているので紹介しておこう。”BP gives green light to $9bn Mad Dog 2 Gulf of Mexico project” (Dec 2, 2016, around 3:00am Tokyo time)という見出しの記事だ。サブタイトルは “Development launched even as offshore producer’s struggle with fall in oil price” となっている。
・価格が低迷し困難な状況にある沖合油田を操業している石油会社の進むべき道を指し示す、総工費90億ドルのMad Dog 2プロジェクトを、BPは推進する決定をした。
・2014年半ば以降の価格下落の中で、投資決断を得た最大級プロジェクトの一つであったこの開発プロジェクトは、当初200億ドルの総工費見込みだった。その後、デザインの見直しと各種供給者との交渉により、コスト半減に成功した。
・BP社長のボブ・ダドリーは「今回の発表は、巨大な深海プロジェクトが、効率的なコストでスマートに設計されるならば、低価格の環境の中でも依然として経済性を維持できることを示している」と語った。
・Mad Dog 2は、2021年末に14万BD能力で生産を開始する予定だ。これはBPが、2016年から2020年にかけて新規に生産を開始する予定の、総量80万石油換算BDのプロジェクトの一つだ。また、2010年のDeepwater Horizon号事件以来、初めてのメキシコ湾における操業プロジェクトでもある。
・Wood Mackenzieによると、2007年から2013年の間には、年平均40件の大型プロジェクトの投資決断がなされていたが、2015年には8件のみだった。米石油会社は、ビジネス・スパンの短い、flexibleな陸上プロジェクトに傾注している。
・他の会社が止めているときに投資することにより、BPは資機材やサービスの供給会社との契約交渉において、比較的強い立場でいられる。
・Mad Dog 2プロジェクトは、BPが60.5%、BHP Billitonが23.9%、Chevronが15.6%の権益を保有している。2005年に生産を開始しているMad Dogの拡張プロジェクトだが、6マイル離れたところに新しいプラットフォームが必要となっていた。
・BPは、2013年にそれまでの浮体式プラットフォーム設計案をご破産にし、あらたな設計作業に取り組んでいた。
・Mad Dog 2プロジェクトの投資決断は、メキシコ湾における活動が活発化していることのもう一つのサインだ。Baker Hughesによると、2014年8月にピークの63基を数えた掘削リグは、今年9月に最低の10基に落ち込んだが、今では23基が稼働している。
この記事から分かるように、BPは2013年に当該プロジェクトの設計を根本的に見直している。これに先立つこと何年も前から探鉱活動が行なわれている、ということだ。その上で、このほど最終投資決断を行い、開発作業が本格化する。2兆円見込みだった総工費は9,000億円程度に減額できた。そして5年後の2021年末に、14万BD能力で生産を開始するということになる。かくて2021年には、階段を一つ上がるように生産量が増える、ということになるわけだ。
このように、在来型の石油開発というものは、手がけてから生産に至るまで、すべてが順調に言っても数年から10年程度、時間がかかるものなのである。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年12月2日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。