OPEC削減合意に市場は何を見たか

NYMEXのWTI原油価格は、11月29日(火)の45.23ドルから12月2日(金)の55.03ドルまで急激に上げた。11月30日(水)のOPECによる生産削減合意への反応である。

取引量も、通常は世界全体の原油生産量の約10倍、10億バレル程度なのだが、30日には約25億バレルと、それまでの最高量である16億バレルを凌駕した。ちなみに16億バレルは、OPECがアルジェで今回の削減合意の前提となる「3,250万BDから3,300万BDへの減産合意に向け、ハイクラス委員会を設置し具体策を協議する」ことを決めた9月28日の取引量だった。

今週のNYMEXの取引を見ていると、非常に興味深いことがわかる。
一つは、株式の世界で「建玉」と呼ばれているOpen Interest(未決済取引残高)が急増していることである。2000年ごろには数億バレルだったのだが、その後、基調としては右肩上がりで順調に増加し、2015年には17億バレルに増加している。

さらに今年9月には18億バレル台へと増加しており、久しぶりに50ドル台に価格が上昇した10月6日に19億バレル台となり、11月11日には20億バレルの大台に乗った。一時は19億バレル台に落ち込んだが、11月25日には20億バレル台を回復し、その後も20億バレル台で推移している。

Open Interestの増加は相場の厚みを増す。売りたい時に売れ、買いたい時に買えるという、先物市場にとってもっとも大切な流動性が増加したことを意味するので、喜ばしいことだ。

もう一つの顕著な動きは、先物曲線の変化だ。
先物曲線とは、直近受渡しものの価格と、将来受渡しもののいくつかの価格を線で結んでできる曲線のことだ。
ちなみに、直近より先物が高い状態をコンタンゴと呼ぶのに対し、先物が安い状態はバクワデーションと呼んでいる。今はコンタンゴである。

OPEC総会前日の11月29日、直近の2017年1月受渡し玉は45.23ドル、取引対象月として一番先の2025年12月受渡し玉は56.66ドルと、11.43ドルの先高、コンタンゴだった。

ところが11月30日、原油価格が急激に上昇したとき、コンタンゴではあるが先物曲線がなだらかになり、9.00ドルの先高となった。

12月2日には、2017年1月受渡しものが51.68ドルとなり、2025年12月受渡しものが58.87ドル、値差は7.19ドルに縮小した。
この4日間で4ドル強も値差が縮小しているのだ。

もっと顕著なのは、直近の価格と、シェール生産業者がヘッジをしていると見られる2017年12月、2018年12月、あるいは2019年12月受渡しものの値差の変化だ。並べると次のようになっている。

11月29日  11月30日  12月1日  12月2日
17年1月   45.23    49.44      51.06   51.68
17年12月    49.36                53.31              54.17            55.03
18年12月   51.12     53.77    53.97      54.85
19年12月   52.11     54.32    54.16      55.11

一目瞭然だが、55ドル近辺にひとつの壁があるようだ。55ドルくらいになると、シェール生産業者が、将来の生産物販売のヘッジとして、ショートセールをしているのだろう。

12月9日のOPEC・非OPEC会合、来年1月以降のOPECの生産動向、欧州・北米の今冬の寒さの程度など、今後の市場動向を占うのに注目すべきファクターは多いが、先物市場が「価格発見能力」を持っているのは事実のようだな。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年12月3日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。