【映画評】アズミ・ハルコは行方不明

渡 まち子
アズミ・ハルコは行方不明 (幻冬舎文庫)

地方都市に住む28歳、独身のOL・安曇春子は、実家で両親と祖母と暮らしている。祖母の介護で疲弊した家庭、セクハラ三昧の発言がまかり通る会社と、春子の毎日はストレスばかり。そんなある日、春子は突然姿を消す。20歳の愛菜は成人式の会場で、同級生・ユキオと再会。なんとなく会って遊んだり、なんとなく身体の関係を持つ。一方、街では、無差別に男たちをボコる女子高生集団が暗躍している。春子が消えた街では、行方不明のポスターをグラフィック・アートにした落書きが不気味に拡散していった…。

寂れた地方都市を舞台に、アラサー、ハタチ、女子高生の三世代の女性たちの生き方を独特の感性で活写する群像劇「アズミ・ハルコは行方不明」。原作は山内マリコの同名小説だ。独身OL春子が消える前と消えた後の時間が交錯し、男たちが異物のように物語に混入するスタイルが個性的である。劇中で重要な役割を果たしているのが、ポップアートと化した、ハルコの顔とMISSINGの文字を組み合わせた落書きの連作だ。ポップアートといえば、アンディ・ウォーホールなどに代表される都会的な大衆文化が思い浮かぶ。若者文化の代名詞で、現代では、バンクシーなどの覆面アーティストがストリート・カルチャーを引っ張っている。アズミ・ハルコの行方不明のポスターは、愛菜のボーイフレンドらによって、街に拡散し、謎めいたムーブメントになっていくのだが、ハルコのアートが拡散した街は、都会的なムードとはほど遠い、閉塞的でダサい地方都市。このギャップが面白い。

本作は、ミステリーとは違う。高らかな成長物語でもなければ社会派でもない。ただ、女性が抱える鬱屈や諦念は、不思議なほど伝わってくるし、垢ぬけない場所で暮らすモヤモヤと未来への不安、それでも生きていく強さが、時系列を崩しエピソードをシャッフルしたぐちゃぐちゃな構成から、フワリと伝わってくる。それはもしかしたら、時代の空気のかけらなのだろうか。どんよりと暗い蒼井優、今までになくチャラい高畑充希と、難しい役を的確に演じた女優たちの魅力が際立っていた。
【70点】
(原題「アズミ・ハルコは行方不明」)
(日本/松居大悟監督/蒼井優、高畑充希、太賀、他)
(ポップ度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年12月3日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式サイトより引用)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。