モバイルイノベーションを深化させるために

山田 肇

モバイル(移動通信)の需要急増に対応するため、LTEの先、次世代(5G)に向けて国際標準化が進んでいる。わが国でも、情報通信審議会で周波数配分に関する議論が開始された。使いやすい数百メガヘルツ(UHF帯)から、ビルに反射され使いにくい高い周波数まで、どこを配分するのだろうか。

情報通信学会で、鬼木甫氏が「(米国)インセンティブ・オークションと電波有効利用に関する日本の課題」を発表し、僕は討論者としてコメントした。

米国では、UHF帯免許人であるテレビ局に電波を空けてもらうよう、インセンティブ・オークションが現在進行している。テレビ局は電波を返納してケーブルテレビやネット経由で番組を配信することになるが、このビジネスモデルの大転換を受け入れる代償として補償金の希望額を入札する。一方、移動通信事業者は新たに取得する電波に幾ら払うか入札する。両者が一致すればオークションが成立する。入札への参加はテレビ局の意思に任され、UHF帯を使い続けたければチャンネルは変更されるが残ることができる(デジタルテレビではチャンネルが自動設定されるので、変更の影響は限定される)。鬼木氏は最新状況を報告したうえで、わが国でも同様の制度を導入するように訴えた。

電波オークションが見送られたわが国で、一気にインセンティブ・オークションを制度化するのは政治的に困難と、総務省は躊躇するかもしれない。

しかし、電波を使って番組を配信する価値は薄れてきた。テレビ局は、リアルタイム視聴と録画視聴に加えて、ネット経由で視聴者に番組を届けている。ケーブルテレビの世帯普及率は52.3%と半数を超えている。衛星放送にもチャンネル拡大の余地がある。番組(コンテンツ)制作者として、テレビ局は多様な配信方法を選択できるし、するようになってきた。テレビ局がネットを警戒していた、デジタルへの移行期とこのあたりの状況は違う。

テレビ局の経営状況は悪化しているが、インセンティブ・オークションならケーブルやネットへの移行費用が賄える。デジタル化の際と同様に、移動通信事業者(を介して加入者)が補償する方法も取り得るだろう。インセンティブ・オークションを含めて、情報通信審議会はテレビ電波の転換について検討するのがよい。少なくとも、補償金と引き換えに電波を返納する意思があるか、あるいは、他のチャンネルに移っても構わないか、テレビ局に聞くべきだ。