イタリアショックがとりあえず後退し、市場の焦点はFRBの利上げのペースに移りつつある。まだ来年のイタリアの総選挙の可能性があり、イタリアの銀行がどうなるのかもわからない、OPECの減産合意が守られるのかもわからないといった不安要素は確かにあるが、市場は目先の動向をみて動く。このため、多少の不安があってもそれが現実化してこないことには材料視しづらい。
特に今年は市場の予想が大きく外れることも多かったことで、予想を織り込んで相場観を組み立てることも難しくなりつつある。今年初めの中国をはじめとした新興国の景気減速やそれと呼応したかのような原油価格の下落も、タイミングとしては予想外ではなかったろうか。それでFRBは利上げのタイミングを逃すことになり、日銀はマイナス金利政策に踏み込んでしまった。
その後は英国の国民投票というイベントでも読み間違いが起きた。市場は僅差でも英国がEU離脱を選択するような結果とはならないと読んでいた。ところが国民投票の結果は、EU離脱と出た。これによりユーロというシステムが崩壊の危機に繋がるとみられたが、その観測も正しくはなく、金融市場での混乱は一時的なものとなった。
そしてまた予想外の出来事が起きたのが米国の大統領選挙であった。いくら二択とはいえトランプ氏の勝利はありえないとの見方が強かった。しかし、結果はそのあり得ない事態が起きた。これによる金融市場の混乱も一時的どころか、むしろ米景気の回復や物価上昇への期待が強まったことで、トランプラリーといった現象が起きた。
世界的なポピュリズム、極右と呼ばれるものの台頭が警戒されつつあり。これは今後の世界経済にも影響をあたう得る。この動きに注意を払う必要はあるが、こと今年の金融市場の動向をみる限り、これまで何度も世界的な金融経済危機を迎えてリスクに敏感になりすぎていたものが、少しずつではあるが緩和の方向に向かっているように思われる。
英国のEU離脱決定、米大統領選挙でのトランプ氏の勝利、さらにイタリアの国民投票結果を受けての首相の辞意表明、いずれも金融市場でのリスク回避の動きは限定的となった。これらは過去に市場を揺るがしたギリシャ・ショックやリーマン・ショックと呼ばれたものと同様の動揺を金融市場に与えることはなかった。ドイツやイタリアの銀行への不安などは残るが、少なくとも大手金融機関が潰れるような出来事でもなく、あらたな財政不安とかが生じているわけでもない(いまのところは)。
市場では12月13、14日のFOMCでの利上げはほぼ100%織り込んでおり、利上げなしのほうが意外性が出てくる。世界的に政治の世界は揺れ動いており、日本の政治の安定度が目立つようにもなってきた。それでも金融市場は少しずつではあるが、大きなリスクのあとの回復基調に入りつつあるようにみえる。来年はその動きが本格化してくることも予想されるのである。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年12月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。