今年の良書ベスト10

アゴラの書評欄では今年120冊以上、私の個人ブログでは約90冊の本を書評したが、そのうち今年の新刊で私の書評した本のベスト10ランキングは、次の通り。それぞれの本についてのコメントは、リンク先の記事を見ていただきたい。

  1. 篠田英朗『集団的自衛権の思想史』
  2. 國重惇史『住友銀行秘史』
  3. デヴィッド・グレーバー『負債論』
  4. 墓田桂『難民問題』
  5. Erixon & Weigel “The Innovation Illusion”
  6. 阿川尚之『憲法改正とは何か』
  7. John B. Judis “The Populist Explosion”
  8. 岡本隆司『中国の論理』
  9. アルビン・E・ロス『Who Gets What』
  10. 春名幹男『仮面の日米同盟』

今年の圧倒的ベストワンは1である。世界情勢に目を閉ざして支離滅裂な憲法解釈を振り回す憲法学者と、それに便乗して騒ぐ野党とマスコミは、池内恵氏も指摘するように「戦後日本思想史の恥部」だ。むしろ問題は、10も明らかにしたように日米同盟がいつまで続くかだ。細谷雄一『安保論争』も、日本の憲法論争がいかに安全保障の本質とかけ離れているかを解明している。

本としてのおもしろさは、2がナンバーワンだった。25年前のバブル期の日記をここまで物語として読ませるのは当事者ならではの迫力で、傍観者だった日経新聞記者の書いた『バブル:日本迷走の原点』は退屈だ。

憲法をめぐっては、さすがに「第9条を絶対守れ」という論調はなくなったが、一部のマスコミは「立憲主義」と称して解釈改憲を否定する。6は立憲主義の本場アメリカの憲法が、いかに大きく「解釈改憲」されて生命を保ってきたかを明らかにしている。同様の説明は『アメリカ大統領制の現在』にもあり、日本の憲法学者がこういう政治学の常識を知らないのは困ったものだ。

今年の世界最大の話題は「トランプ大統領」の出現だが、合衆国憲法はこういう僭主の登場を織り込んで設計されているので、よくも悪くもそれほど劇的な変化は起こらないだろう。7はこうしたポピュリズムが、長期的な傾向だと論じている。その背景にあるのは、『反知性主義』という特殊アメリカ的な思想だ。

EUでは難民問題で各国の政権がゆらいでイギリスが離脱したが、日本では民進党が蓮舫の二重国籍問題で「多様性」を言い訳にして失笑を買った。4は難民問題がいかに根深く、普遍的な問題かを解説している。日本の政治もマスコミもガラパゴス的な平和の中で憲法をめぐる神学論争に明け暮れているが、この平和がいつまでも続くとは限らない。

経済学の本は不作だったが、3は人類学者の書いた貨幣経済の本質論。学問的には論争があるようだが、革命とは「約束を破って借金を踏み倒すこと」だという著者の「アナーキスト人類学」は、ピケティよりおもしろい。