なぜ金利はゼロなの?

池田 信夫

今年もそろそろ終わりです。安倍首相が「輪転機をぐるぐる回してお札を印刷する」といって登場してから4年たちますが、何も起こりません。成長率もインフレ率もゼロに近づきましたが、長期金利もゼロに近づいています。図のように最近はちょっと上がっていますが、ようやくマイナスからゼロになった異常な低金利です。

キャプチャ

2006年からの長期金利(10年物国債)日本相互証券

日本政府の予算は半分が借金で、その残高は1100兆円を超えました。これは民間なら毎年50億円かせぐ会社が1100億円お金を借りているようなもので、とっくにつぶれているでしょう。そんなひどい状況なのに、なぜ金利は下がっている(国債価格は上がっている)のでしょうか? 

その一つの簡単な説明は、日銀が短期の政策金利をマイナスに誘導しているからですが、これは話が逆です。市場の金利が下がっているから、日銀が金利を下げたのです。

もう一つは日銀が国債をたくさん買っているからですが、これも説明にならない。今のように日銀が300兆円以上も国債をもつのはマネタイゼーション(国債をお金に換えること)と呼ばれ、財政がゆきづまったとみられるので、国債が売られて金利は上がるはずです。

もう一つは国債の他にリスクなしでもうかる融資先がないことですが、国債のリスクは本当は大きい。日銀には50兆円以上の含み損があるともいわれます。メガバンクは、だんだん買わなくなっています。

本当の理由は、投資家(主に日本の銀行)が、日本人はまじめだから政府はいずれ借金を返すだろうと思っていることです。これはよい子のみなさんにもわかりますね。よその人にたくさんお金を貸すとき大事なのは、その人がお金をもっているかどうかだけでなく、ちゃんと返すかどうかです。

なーんだ、バカみたい、と思わないでください。これはマクロ経済学でも謎で、経済学者は「今年こそ金利が上がる」といっていましたが、今年もはずれました。理屈の上では、日本政府が今の借金を返すには、消費税を30%以上に上げる必要があります。これは無理ですが、日本人は追い込まれたら何とかして返すだろうと投資家は思っているわけです。

中南米では政府もしょっちゅう借金を踏み倒すので金利は高く、ひどいインフレも起こりますが、日本政府は「借金を返さない」という意味のデフォルトは一度もやったことがありません。終戦直後には200倍以上のインフレになりましたが、(紙切れになった)戦時国債をちゃんと返したのです。

これはみんなが国債を買うと思っているから買うという循環論法ですから、みんなが買わなくなったらだれも買わなくなります。安倍首相はまじめな常識人なので、彼の政権ではインフレにならないが、金利も上がらないでしょう。これはほとんど説明になってませんが、最新のマクロ経済理論です。

では投資家がみんな「日本国債は危ない」と思って国債を売るのは、いつでしょうか? これもわかりません。わかったら、相場で大もうけできるでしょう。確実にいえるのは、何も起こらないと、みなさんの世代が借金をはらわないといけないということですが、よい子のみなさんには選挙権がありません。これは経済問題ではなく、政治問題なのです。