トランプ米国次期大統領の政権構想が報道されている。プロレス団体の元最高経営責任者を中小企業庁長官に、「狂犬」を国防長官に、と型破りである。そんな折、連邦通信委員会(FCC)のウィーラー委員長が、トランプ氏が大統領に就任する1月20日に、退任すると自ら発表した。
FCCは通信ビジネスを規制する独立行政機関であって、委員長を含め5名の委員は大統領が任命する。現在は民主党系3名・共和党系2名であるが、新しい委員が指名されれば勢力は逆転する。
FCCはこのところネット中立性(ネットワーク中立性)規制に取り組んできた。ネット会社が推奨する以外のコンテンツを視聴すると通信速度が下がるとか、特定のSNSがブロックされるとか、ネットがコンテンツを差別してよいか。それとも、ネットは公平に差別なく利用されるべきか。これがネット中立性論争である。民主党系は規制に賛成し、共和党系は不要と考えている。規制重視の大きな政府志向の民主党と、市場重視の小さな政府志向の共和党それぞれの思想を反映するものである。ウィーラー委員長はネット中立性規制を推進してきたが、FCCで共和党系が多数派になれば規制は見直される。
米国での論争は欧州にも波及し、欧州版の規制は2016年4月から加盟国に適用された。米国がはしごを外したら、欧州はどう反応するだろうか。
わが国ではISP団体等が「帯域制御の運用基準に関するガイドライン」を定めている。この業界自主基準は、トラヒックの増加にISPは設備増強で対処すべきであり、帯域制御はあくまでも例外という基本原則を掲げている。そのうえで、「特定のヘビーユーザ」が特定のアプリを利用して過度にネットを占拠している場合などには、特定のアプリに限って帯域制御することを例外として認める。一方、LINEモバイルはLINE・Twitter・Facebook・Instagramについて通信量をカウントしない、カウントフリーを料金体系に組み込んだ。これは帯域制御とは逆方向の「利用推奨」であるが、公平性が損なわれる点では帯域制御と同様である。
民主党系の委員長が退任すると方針が変わるように、ネット中立性は政治的な課題である。規制の方向性によっては通信の利用形態が大きく変わる可能性があり、また、米国での動きが欧州に波及したように、日本にも影響が及ぶかもしれない。ネットは土管に徹するか、それとも特定のコンテンツを推奨しても構わないかはビジネスモデルに直結する。
ネット中立性に関するFCCの動きに注目しよう。