オバマ、北極海石油開発に関する法廷闘争をお膳立て

本ブログのタイトルとした記事見出しが意味するところは(トランプ次期大統領がエネルギー政策、特に石油ガス関連、として実行できる狭い範囲の中で注目される)連邦政府管轄の北極海における石油開発を巡って法廷闘争になるだろう、ということだ。FTが東京時間の今朝3;00am(12月22日)ごろ、”Obama set stage for legal fight over Arctic oil drilling” と題して報じているものだ。サブタイトルは “US president tries to shore up his legacy by making large area “indefinitely” off-limits” となっている。

米国では、地下の石油・ガス等の所有権は土地の所有者に所属している。その権利を「リース」という形で、1859年のドレークの時代から売買や賃貸を行い、石油開発が行われてきている。

だがそれは陸上に限定される。海上には個人の所有権が及ばないからだ。
海上は、陸から近いところは州政府が、遠いところ(outer continental shelf=「外大陸棚」)は連邦政府が管轄している。「陸から近いところ」に関しては州によって異なるようだが、通常数キロメートルとなっている。

陸上にはさまざまな歴史的経緯を経て今日連邦政府管轄地域となっている土地が、自然保護のための地域とか先住民保留地だとか、国土の3分の1ほど存在している。海軍石油保留地もその一部だ。

さて本題に戻って、記事の要点を次のとおり紹介しておこう。

・オバマ大統領は、自らの遺産を補強すべくカナダと共同で、北極海の広大な地域での石油ガスの掘削を未来永劫禁止する措置を取った。漏油事故等から環境を守るためだという。

・シェルが2015年、7年間に70億ドル(8,000億円)を投じて行った探鉱に失敗して撤退したように、かつては「次の偉大なるフロンティア」と期待されていた北極海だが、2年前からの油価低下によりすっかり業界の熱意は冷めている(探鉱は、オール・オア・ナッシングなんです!)。

・シェルは問い合わせに対しコメントを避けたが、関係者によると、当面カムバックするつもりはないので、今回の決定も何の意味ももたないだろう、という。

・だがこの決定は、トランプと彼を次ぐ大統領にとってはオプションを狭めるもので、たとえば将来油価が上昇する時がきても、北極海で掘削ができないということになる。

・共和党は地球温暖化に懐疑的であり、パリ協定からの脱退を約束している。レックス・ティラーソンを次期国務長官に任命するなど石油業界寄りであることもはっきりしている。

・トランプ政権移行チームはコメントを避けたが、業界の反対派は、次期政権がこの決定をひっくり返すことを要求している。

・特に重要なのは、北極海の1億1500万エーカーと大西洋岸の380万エーカーが含まれていることで、オバマ政権側は、根拠としている「1953年外大陸棚法」は、大統領にリースを取り下げる権限を与えているが、前任者の決定をひっくり返す権限は与えていない、としている。この判断はこれまで、司法判断に持ち込まれたことがない。

・反対派のAPI(米国石油協会)は、2008年にブッシュ大統領が前任のクリントン大統領の決定を覆した事例を指摘しているが、環境派は、それはある限られた範囲のものの取り下げに関するものだった、と反論している。

・北極海の、陸に近く、石油ガス発見の可能性が高いとみられている280万エーカーの海域は含まれていない。

・北極海では、今年2月には527件のリース(鉱業権)が連邦管轄地域で(民間企業に)保有されていたが、経済性が見込まれないことから放棄されたところが多く、10月には43件に減少している。それらの多くが2017年には失効する。

・米国地質調査所の推測では、北極海には世界の未発見石油ガス資源量の13%に相当する900億バレルの賦存があると思われている。

ふむふむ。
筆者が興味深いと思ったのは、大西洋岸の「外大陸棚」に関しては、これまでほとんど話題に上っていない点だ。やはりNIMBYなのだろうか。

また、トランプの基本的な関心が労働政策にあると思えるので、一般大衆の雇用にさほどの効果をもたらさない北極海における石油開発(低油価の環境下では大石油会社も強くは要求しないだろうから)をあえて支援することもしないのではないだろうか。具体的に着手するのは、石炭業界にとって追い風になる「クリーン電力計画」つぶしではなかろうか。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年12月22日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。