今週のメルマガ前半部の紹介です。
現在、政府内で同一労働同一賃金の実現を巡って様々な議論が行われています。「同じ仕事をしていれば雇用形態や年齢に関わらず同じ時給を支払おう」という奴ですね。その過程で、非正規雇用にもボーナスを支払わせるというガイドラインの存在が話題となっています。
「同じ仕事をしているのに正社員だけボーナスが出るのは納得できない」という声は昔から非正規雇用労働者の間に根強く存在していました。そういう観点からすれば、ボーナス支給ガイドラインは格差是正につながりそうにも思えます。
でも、そのコスト増は誰が負担するんでしょうか?そもそも、“同一労働同一賃金”って、政府がガイドライン作って実現させるようなものなんでしょうか?今回は賃金の決まるメカニズムについてまとめてみたいと思います。
非正規雇用のボーナス払わせたら単に毎月の給料が減るだけ
たとえば、年収350万円(ボーナス、手当等無し)の契約社員がいるとします。で、政府がガイドラインに沿ってその人の働いている企業に対し「契約社員にもボーナスを払いたまえ」と言ってきたとします。たぶん人事部門としては基本給を下げて基本給で年250万円、夏冬ボーナスで+100万円という具合に帳じりを合わせるはず。だってその仕事には350万円という市場価格がついているわけで、それ以上にお金出すという発想は(少なくとも民間企業には)ないからです。
同じことは社会保険にも言えます。やはり格差是正の一環と称して、パートや契約社員の厚生年金の加入拡大が進められていますが、それで発生する企業負担分を文字通り負担してあげる心の広い企業は多くはないでしょう。
「農家の家庭の事情があるから大根一本500円にすべし」とやったら、誰も大根なんて買わないでしょう。労働も同じことですね。基本的に市場価格に手を突っ込んで上げ下げしようとする政策は悪手と思ってください。
というと「だったら同一労働同一賃金なんて永遠に実現不可能じゃないの?」と思う人もいるでしょうが、もちろん実現は可能です。ただ、それには「規制を作る」のではなく「既に存在する規制を取り払ってやる」ことが必要です。
筆者は先に「非正規雇用の人たちの賃金も市場価格なんだから勝手に動かせない」と書きました。でも、現在の日本の労働市場にはデカくてゴツい規制がいくつかあります。
たとえば、こんなのがそうです。
・有期雇用は5年以上雇ってはいけない
・派遣社員は3年以上雇ってはいけない
これにより、非正規雇用の人は数年ごとに職を転々とせねばならず、会社も「付加価値の高い重要な仕事は正社員に、そうでない単純な仕事は非正規に」という具合に担当業務をふりわけるしかありません。そしてこれが正規と非正規の賃金格差が生じる最大の理由です。
あと、こんなのもあります。
・正社員の解雇はもちろん、賃下げもよほどのことがない限り認められない
このおかげで、リーマンショックみたいな雇用調整の必要な状況になると非正規雇用側が一方的に雇い止めになり、ちょっと景気が持ち直したらベアやボーナスという形で果実は正社員側に持っていかれるわけです。
「〇〇しなければならない!」という規制はいくら増やしてもイタチごっこが続くでしょうし、経済活動を阻害するだけです。同一労働同一賃金の実現のためにやるべきは上記のような規制の緩和であり、その中で同一労働同一賃金の成立を促すのが正道でしょう。
と書くと「自分たち正社員の仕事が取られたり、賃下げにつながるんじゃないか」と心配する人もいるかもしれません。そりゃ正社員というだけで貰いすぎだった人はそうでしょう。各人が役割、能力に応じて処遇されるのは当然のことですから。
きっと労組や左派は反対するでしょうが、誰かにだけ安い仕事押し付けたり人件費を独占したりするのはそもそも労働運動でも何でもないです。フランス革命とかロシア革命でみぐるみはがれた貴族と言ってる事同じでしょう。
以降、
ほっといても自然と同一労働同一賃金が実現する方法
非正規雇用労働者は青空を、正社員側は多様性を楽しもう
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2016年12月22日の記事より転載させていただきました(アイキャッチ画像は毎日新聞より引用)。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。