まもなく安倍総理が真珠湾を訪問する。
この訪問について様々な意見があるが、私は率直に評価したい。
それがオバマ大統領の広島訪問に対する「返礼」的な要素があるにしても、日米両国の関係強化にとってプラスにこそなれマイナスになることはないと考えるからだ。(トランプ氏がどう思っているかは分からないが。)
ただ、今回の訪問に関して理解に苦しむのは、安倍総理の真珠湾訪問が発表されたとき、
大新聞各紙やNHKをはじめとしたマスコミがそろって、
「現職総理として初の真珠湾訪問」
と大々的に報じたことだ。
しかし、その後、吉田茂元総理も訪問していること、さらには、鳩山一郎元総理も、岸信介元総理も真珠湾を訪問し、あまつさえ、太平洋軍司令部を公式訪問していることが、海外メディアの報道によって明らかになった。
外務省は、こうした報道がなされても当初、
「事実が確認できない」
と言い続けてきた。
しかし、さすがにまずいと思ったのか、菅官房長官が訪問直前になって、
「事実が確認できた」
と発表し、メディアもそう報じている。
結局、現職の総理としては四人目の訪問となる。
大丈夫だろうか。
大手メディアも、そして官僚組織も、十分な事実確認を行うことなく(業界用語で言えば「裏を取る」ことなく)、「現職総理として初」などという都合のいい情報を垂れ流し、それに基づき、世論が形成されていく。
権力側にとってこれほど都合のいい状態はないだろう。
真珠湾訪問で日米関係はいくぶん前に進むだろう。
しかし、我が国のメディアと官僚組織は、それこそ「大本営発表」の時代に後戻りしているのではと心配になる。
真珠湾攻撃から75年。
世界は大きく変わり、日米関係も大きく変わった。
しかし、批判的な視点を失いがちな我が国のメディアの在り方や、なんでも「右へならえ」の気質は、少しも変わっていないのではないか。
「一強多弱」と言われる政治状況は、私たち野党にも大きな責任があるが、メディアも、この「多弱」の一つに含まれているのではないか。
問題は、メディアの皆さんにその自覚があるかどうかだ。
むしろ、自分たちは「一強」側だと勘違いしている方もいるのではないだろうか。
弱小野党の批判に時間を割くのもいいが、権力者が発する情報のファクトチェック(事実確認)ぐらいしっかりやってもらいたい。優秀な霞が関の官僚諸君もがんばれ。
事実よりも、感情に訴えるものが世論形成に影響力を持つ「ポスト・トゥルース(post-truth)」と言われる時代だからこそ、事実に迫る関係者の矜持に期待したい。
編集部より:この記事は、衆議院議員・玉木雄一郎氏の公式ブログ 2016年12月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。