昔読んだ本(書名は忘れました)に次のようなことが書かれていました。
マンハッタンにある某ホテルの客室内のミニバーのエビアンのボトルの値段は、近くのドラッグストアの約4倍の価格だ。その理由は、ネットで宿泊費の価格競争が激しくなっているので、価格にうるさい客により多くの割引を与えるためだ。割引を穴埋めするために、価格にうるさくない客がミニバーを使って儲けさせてくれる。
つまり、ネット利用によって多くの人々が価格に敏感になっているので、多くの顧客を集めるためにはできるだけ宿泊料金を安くしなければなりません。しかし、宿泊客の中には価格に敏感でない人が一定割合はいるので、そういう人が気前よく利用するミニバーからの利益で、ネット競争で安くせざるを得なかった宿泊料金の穴埋めしているというのです。
もっと単純に言ってしまえば、ミニバーを使う宿泊客の負担で、(決してミニバーなど使わない)価格に敏感な宿泊客が得をしているということです。ミニバーというシステムを間に通すことで、(間接的に)太っ腹な客からケチな客に資金が移転しているのです。
私は、4倍というのは目にしたことはありませんが、ビジネスホテルの冷蔵庫や映画館の飲み物の値段が普通より高いと感じたことが何度もあります。ケチな私は滅多に普通より高いものは買わないようにしていますが(笑)
当初私は、ホテルや映画館に一度入ってしまうと(事実上)外の店との比較購入が困難なので、囲い込んだ客からトコトン巻き上げるためのアコギな手段だと思っていました。しかし、先の例のように、高い買い物が間接的に他の顧客の利益になっていると考える方がおそらく合理的なのでしょう。アコギなやり方を続けていると悪評が立つし、他の同業者が安くして顧客をさらってしまうからです。「当ホテルの冷蔵庫の飲み物はコンビニと同じ値段です」という広告を打たれて。
飲食店では、アルコール類を高くして料理を安くしている店があります。これは、(間接的に)のんべの懐から下戸で食事だけの客の懐にお金が流れているのでしょう。映画館の飲み物の上乗せ分は、平日の空いている時間にゆったりと鑑賞しながら持参した飲み物しか飲まない客の穴埋めになっているのでしょう。
このように考えると、下手な散財をせずに着実に資産を形成するコツは、「相対的に高額な商品」に決して手を出ささないということになります。
具体例として、ホテルでの結婚披露宴、クリスマスディナー、正月料理、観光シーズンの休日の行楽など、数え上げればいくらでも思い当たります。
得に観光地では休日と平日では「天と地の違い」がある場合があります。私が銀行員で独身寮に住んでいた頃、寮生で有給を調整してスキーに行きました(当時は、月曜日の次の火曜日に祭日があったので有給で埋める従業員がたくさんいました)。
休日は狭い部屋に何人も押し込められて食事も雑でした。ところが、有給を取った平日は、3人にしては広々とした部屋に変えてもらい食事も豪華でした。もちろん、宿泊費は同じか、もしくは休日の方が高かったと記憶しています。
今から考えると、休日にたくさんの押し寄せる宿泊客で旅館がボロ儲けをているのではなく、休日の宿泊客の負担で平日の宿泊客が得をするというシステムだったのでしょう。旅館側としても、できるだけ平日に多くの宿泊客が来てくれたほうが安定的な利益を上げることができますから。
ということで、中間管理職のみなさん。部下が有給休暇を申請してきた時は「休日よりもウンとお得な時間が過ごせるよ」と励ましてあげましょう。本稿の理屈を説明すれば、あなたの株が上がること間違いなしです。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2016年12月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。