昨晩放送されたTBS「ニュースキャスター」という番組で、清原さんのインタビューが流され、Twitter等で話題になっておりますので、本日は、あの番組から読み取れる範囲の、清原さんの回復について、私なりの見解を書きたいと思います。
あの番組の中で、清原さんは回復を示す重大な言葉を、いくつか発せられていました。
まず、一番のポイントは、「現在は、覚せい剤はやめられているんですか?」
というインタビュアーの質問に対し、清原さんは、「やめられたという言葉は言いづらいんですけれども、今日は使わなかった・・・という一日一日の積み重ねですね、今は。」とおっしゃっていました。
これは一般の方がお聞きになると、
「はっきり二度と使わないと言わんかい!なんか頼りないなぁ~。」と思われるかもしれません。
けれども、その強い決意表明こそが依存症の否認であり、依存症治療の第一歩は「自分の意思だけではやめられなかった。」という、現実を受け入れ認めることが最初の一歩なのです。
ですから私たちの大切なスローガンの1つに「今日一日」という言葉があります。
これは、遠い未来について、強い決意を示すよりも、今日一日、薬を使わない、お酒を飲まない、ギャンブルをやらないという行動をとる方がずっと大事だよ!という、先人達の教えです。
この教えの大切さは、かつて依存症者だった私には良く分かります。
私も、ギャンブルや買い物を「やめなくては!」と強い意思を持ち、
何度も決意表明していました。
けれどもその決意は毎日「今日を最後に、明日からは生まれ変わろう!」となってしまっていたのです。
だから「決意」よりも、実際の「行動」これが一番大切で、清原さんが「一日一日・・・」とおっしゃったのは、まさに回復プログラムにのられたことを示していると思いました。
さらに「薬物をコントロールしていると思っていたけれども、自分ではコントロールできていなかった」「自分一人では、やめられない」という言葉も述べておられました。このことを認められたことも、回復を示す大切な発言です。
これは大スターだった清原さんにとって、屈辱的な事だったはずです。
いえ私のような市井の一般人でさえ、「自分が人のサポートなしには生きられない人間なんだ」と認めることは、最初は非常に辛いことでした。人生全てに敗北したような、自分を恥じる気持ちになりました。
けれども一旦それを認められたら、人生は劇的に変化したのです。
「なんだ!自分一人じゃ生きられないから人の有難味が分かったし、仲間に囲まれて大事にされている自分を実感できたし、仲間を助けて行く自分の役割もできたんだ、実は幸せなことだったんだ」と、年月を重ねて行くうちに、私も実感できるようになりました。
清原さんは最後に「一回自分は清原和博を嫌になりました。でももう一度、清原和博をやり直したい」と涙ぐみながらおっしゃっていました。
この最後の一言に、私をはじめ多くの依存症からの回復者は涙したに違いありません。
清原さんがおっしゃる通り、依存症者は皆、自分を嫌いになっています。
やめよう!やめよう!と葛藤し、もがき苦しみながらも、やめられなかった自分。
大切な人を傷つけ、大切なものを失ってしまった自分。
そんな依存症者の自分を愛せる人などいません。
ですから、依存症からの回復とは何か?
それは「自分を愛せるようになること」だと思っています。
今回このインタビューを放映したのは、メインキャスターを北野武さんがつとめておられる番組でしたが、最近のこの手の番組の中でピカ一に上質な前向きな番組だったと思っております。
まず、インタビュー自体に十分なボリュームがあったこと。
また、スタジオの解説者に東京大学薬学部の池谷教授という方がおられ、その先生が「薬物依存症は自分の意思の力で治せるものではない」と、きっぱりとおっしゃって下さったこと。
そして何よりも、大スターであり、発言に重みがある北野武さんが「脳の病気なんだ。俺も浅草の芸人さん見てきたけど、自分じゃやめられないんだよ」とおっしゃって下さったこと。さらには、「この選手は名選手なんだ。だから生きる道って野球しかないと思うよ。野球界はコーチなり、監督なりで受け止める広さを見せて欲しいと思うよ。永久追放みたいなことを言うからダメで、野球界、皆で支えて欲しい」とおっしゃったことです。
これにはうならせられました。
そして「武さん有難う!」と依存症者の一人として、心から御礼を申し上げたい気持ちでいっぱいになりました。
有名人の薬物依存症事件では、今までさんざん持ち上げてきた人達が、手のひらを返したように、罵倒し、さげすみ、貶め、何をやっても構わないとばかりに、人権など無視したような報道を沢山見て参りましたが、さすが「世界の北野」がみている世界観は、そこらのタレントとは全く違うと、格の違いを見せつけられた気が致しました。
このような発言をすれば、叩かれる可能性は十分あることですが、自分の保身よりも、困っている人の真の再生に目を向けられていて、毒舌で売っていながら人々に愛される、武さんの愛情深さを垣間見た気が致しました。
昨日の「ニュースキャスター」は、武さんを筆頭にコメンテーターの皆様の質の良さで、人間的な温かみと、社会の好循環を牽引するような良番組に仕上がっていたと思います。
今後、このような構成の番組が増えていくことを心から願っています。
編集部より:この記事は、一般社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2016年12月30日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。