新日本プロレスはこれ以上、何を目指すのか?

新日本プロレスの東京ドーム大会「WRESTLE KINGDOM 11 in 東京ドーム」に行ってきた。毎年、1月4日に開催されるのでファンの間では「1.4(イッテンヨン)」と呼ばれている。結論から言うと、これ以上、何を目指すのかというレベルの完成度の高い興行だった。カード、試合内容、運営、演出など、どれをとっても完璧だ。しかし、これ以上、何を目指すのかというのが気になった。

16時前に会場入りした。本編スタートは17時00分なのにも関わらず、もうすでにかなりの入りだ。中に入るのにも行列しなくてはならない。グッズ売り場も長蛇の列だ。この1年においては、内藤哲也率いるLos Ingobernables de Japon(ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン)のグッズが人気を呼んでいる。会場でもこのグッズを身にまとった人だらけだった。かつて、一般人まで広がった、NWO Tシャツブーム(日本では武藤敬司・蝶野正洋などが在籍した軍団)を思い出す。

16時10分からダークマッチが始まる。時間差バトルロイヤルだ。なんと、虎ハンター小林邦昭が登場。4代目タイガーマスクや獣神サンダー・ライガーへのマスク剥ぎなども飛び出した。スコット・ノートンやヒロ斉藤という往年の名レスラーも登場。このあたり、プロレスファンにはたまらない。新日本プロレスは選手の層が厚いがゆえに、普通の大会では全選手が出場しきれなくなっている。昔からのファンにとってはたまらないし、最近、プロレスを見出した人にとっても、楽しめる企画だった。

17時から本編スタート。21時半すぎまで約4.5時間、休憩なしの興行だったが、飽きないカード、試合内容だった。音楽のライブなどでも最近は、LED照明の導入、映像の活用などが進んでいるが、ここ数年はリング上の屋根の部分にまで映像が投影されるようになっている。

ステージ上には、目玉をモチーフとした大画面が。スクリーン全体が格闘技ゲームのモニターのようだ。

試合においては、今年こそエース棚橋が復活するかと思いきや、昨年プロレス大賞MVPだった内藤哲也に敗れるという・・・。もっとも、それくらい時代の風はLos Ingobernables de Japonと内藤哲也にふいているということか。同じLos Ingobernables de Japonで言うと、高橋ヒロムもIWGPジュニア王座を獲得。勢いにのっている。試合内容もそれぞれ充実していた。

しかし、圧巻だったのは、メイン・イベントのIWGP世界ヘビー級選手権のオカダカズチカ対ケニー・オメガだった。もともと昭和のプロレスは、日本人対外国人という構図が人気を呼んだわけだが、これは2010年代の力道山対ルー・テーズだ。45分を超える熱戦だった。もう、これ以上出す技があるのかというくらいの状態だった。

数年前にオカダカズチカがこの東京ドームで棚橋弘至に挑戦状を叩きつけた際には失笑やブーイングが入り混じった微妙な状態だったが、もはや絶対王者、スーパースターと言っていい存在感になってきた。試合後のMCでは選手の離脱についてもふれられた。エースの一人である中邑真輔や、看板外国人の海外流出などがあった中、団体を引っ張ってきたオカダカズチカは完全に一皮むけてきた。「背負っているものが違う」ということが煽り映像でも、MCでも語られていた。新日本プロレスを、日本のマット界を背負う男に、オカダカズチカは成長したと言えるだろう。

正月にふさわしい大会だった。大満足だ。

もっとも、メインやセミの試合に感じたとおり「これ以上、何をするというのだろう」という贅沢な疑問がずっと頭にこびりついている。東京ドームは超満員と言っていい動員になり盛り上がる。冬の時代も完全にすぎた。しかし、新日本プロレスはこれ以上、何を目指すというのだろう?

もちろん、一般人も巻き込んだプロレスブームの到来、オカダ、内藤、棚橋、真壁などがますますメディアに露出する、海外展開など、様々な打ち手はあり得る。しかし、この「(新たなファンを含む)新日本プロレスファンからの人気」はいい感じに盛り上がっていて、選手やスタッフも十分に食べられるだけの状態になっているものの、日本国内における一般人や、世界のプロレスファンに向けた大ブレークまだはまだ遠いというのが、いまの新日本プロレスのジレンマではないか。

いや、これは実はエンタメ業界全体が直面している課題であり。その課題を乗り越えるべきなのかという問題もある。要するに、マネタイズをどうデザインするかという話であり。興行収入、グッズ収入、放映権料、さらにはネット配信の収入、スポンサーのバックアップなどで、新日本プロレスは十分に食えるし、国内では圧倒的に1位だ。儲かる仕組みはできている。ただ、次のステージを目指すか覚悟はあるのか。

世界の最大のプロレス団体WWEの年商は年にもよるが500~600億円だ。ざっくり新日本プロレスの約20倍くらいだと思うと良い。ますます儲かる体制にしないと、WWEの世界戦略のために、年俸と何より夢の大きさで選手は今後も抜かれていくだろう。

選手やスタッフに対しても、何よりファンに対して、どんな大きな夢を提示するのか、しないのか。今後の新日本プロレスの動きに注目したい。

このどこまで拡大路線に走るのか(走らないのか)は、日本のエンタメ業界というか、コンテンツ産業が直面している課題だ。別に拡大がいいというわけではないのだけど。

さ、プロレスに勇気をもらったあとは、働きますかね。今日も原稿。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2017年1月5日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた常見氏に心より感謝申し上げます。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。