こんにちは、内閣府子ども子育て会議委員の駒崎です。
正月気分が抜けず、ぬるぬる仕事始めしてたら飛び込んで来ましたよ、ビッグニュースが。
・待機児童解消へ、都が保育士1人に2万円上乗せ 読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/national/20170104-OYT1T50113.html
これはヤバい(良い意味で)。
ヤバすぎます(良い意味で)。
どうヤバいのか、これから解説します。
待機児童の根本にある保育士不足
待機児童が非常に多いことは皆さんご存知かと思いますが、東京都は最多の待機児童を抱えています。
待機児童と言っても、自治体によっては「保育園入れなかったから、育休延長した」みたいな人を抜いたりしてるので、まやかしの数字で、実際は現状の数字よりも、もっと多いわけです。
このたくさんの待機児童を救うべく、我々保育事業者は何とか保育園を増やそうとしているのですが、ここにハードルが立ちはだかっています。(1)保育士不足の壁 (2)自治体の壁 (3)物件の壁です。
その中でも、特に高くそびえ立っているのが、保育士不足の壁です。(その他の壁については、こちらの記事に詳細があります 「政府が待機児童対策で困っているようなので、具体策を出してみた」 http://bit.ly/1MgujIC)
なんせ、有効求人倍率は、一昨年の11月で66倍です。66の保育園が、1人の保育士を奪い合っている状況です。
(出典:保育士獲得競争、アクセル全開 都心の求人倍率は66倍 朝日新聞 http://bit.ly/2hV340p)
保育士不足の大きな要因=低い給与
なんで保育士不足なの?ということなんですが、保育士有資格者自体は119万人もいます。しかし、保育園で働いてくれているのは、その半分以下の43万人。保育士はいるのに、現場で働くことを選択してないんです。(出典:厚労省「保育士等に関する関係資料」 http://bit.ly/2hVrirp)
その理由の最たるものが、低い給与です。全産業平均から、月収で約11万円近く低いことで、他産業との採用競争で敗北するわけです。(出典:【暮らしの行方】<上>保育 財源確保めどたたず – 西日本新聞 http://bit.ly/2hV3fJ6 )
国を超える施策
政府も「保育園落ちた日本死ね」騒ぎ以降、調査を重ねそれに気づき、対策を打ち出しました。それが「保育士給与2%(6000円)アップ・ベテランは最大4万円アップ」作戦です。
(出典:保育士 ベテランを厚遇 給与月6000円引き上げ – 毎日新聞 http://bit.ly/2hV3xQm)
これは政府も限りある財源の中、非常に頑張った、と評価したいです。一方で、保育士不足を打開するインパクトが出るのか、は不透明な状況でした。
しかし、東京都は「保育士一律月2万アップ」という、国の処遇改善を超える打ち手を、今回は打ち出してきたわけです。
効果出るの?
さて、これがどのくらいの効果をもたらすか、を非常に荒い即席のもので申し訳有りませんが、計算してみました。
東京都の正社員の女性の平均賃金が月給27.7万+賞与2ヶ月です。(出典: DODA平均年収/生涯年収2014 都道府県別 http://bit.ly/2hT7FNu )
2013年度からは、東京都はキャリアアップ補助という上乗せ加算を創設しました。(舛添保育都政唯一の功績)
それが2.1万円でした。また、2015年度からは国の補助(公定価格)のアップにより、約1.2万円が増額されているので、おそらく現在の東京都の保育士平均月給は22.5万円程度になっていると想定できます。
前述したように、国が来年度から6000円/月(+ベテランには最高4万円)を増額するため、平均値は23.1万円~に上昇することが予想できます。
そこに、今回の月給プラス2万円が乗っかりますと、平均25.1万円までいきます。東京都の女性の平均月給27.7万円には届きませんが、かなり近づきます。
これを民間会社が行なった、保育士の主観満足度調査結果に照らしてみましょう。月給25万は年収で350万円です。現状では47%+αの人たちしか満足していない状況ですが、これが66%程度まで上昇することになります。
(出典:2016年6月【独自調査結果発表】保育士の給与額、理想と現実との差額は100万円 http://bit.ly/2dHVMYI )
本当に保育士に行き渡るの?
都が補助金をアップしても、保育事業者がポッケに入れちゃうんじゃないの?といぶかしく思う人もいるでしょう。ただ、今回のやり方は「キャリアアップ補助」の増額として行われます。
キャリアアップ補助というのは、「保育士に支払った分だけ補助される」という仕組みです。よって、保育士に行き渡りやすいのです。(ただし、計算方法が複雑かつ手間がかかり、事業者としては本当に事務的には面倒くさいものになっています)
課題はないの?
今回の処遇改善によって、保育士不足を乗り越える大きな武器を得たと言えるでしょう。しかし、この施策は来年度行われるものなので、今年の10~12月の保育士確保シーズンに効果を発揮してくるのです。つまりは、今年、あと3ヶ月後に迫る4月の入園には間に合いません。
そういうわけで、目前に迫る待機児童問題には効きませんし、おそらくは待機児童は今年も大きな問題となるでしょうが、来年以降の入園枠の拡大には、大きく寄与することでしょう。
また処遇改善がなされた後は、保育士の長時間労働・サービス残業・持ち帰り残業等の働き方の問題が残っています。こちらはこちらで、サビ残事業者の摘発や働きやすい保育所の都をあげての表彰等、やるべきことはたくさんあるので、がっつりやっていかないといけません。
最後に
短期には効果がでづらいですが、中長期的に待機児童を解消するためには外せない一手を、小池都知事は確実に打ってきました。
これは、保育政策のブレーンである経済学者の鈴木亘教授の功績が大きいのではなかろうかと思います。チーム小池に、グッジョブと言いたいです。
ぜひ、国や待機児童の多いその他の自治体は都の政策を見習って頂き、待機児童対策に全力を尽くして頂きたいと思います。保育園の現場からは以上です。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2017年1月5日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。