トランプ「大統領」に規制緩和を求めるアメリカ石油協会

岩瀬 昇

トランプ「大統領」の有効なエネルギー政策とは何だろうか。
石油ガス増産のために規制緩和を行う、と言っているが、環境問題と正面衝突する沖合石油掘削とパイプライン(P/L)建設以外に、連邦政府として緩和することが可能な規制とはどのようなものがあるのだろうか。

不勉強な筆者が思いつくのは、連邦管轄地域(陸上)をシェールのために開放することくらいしかない。だが開放しても、価格が大きく上昇しなければ、シェール業者は飛びつかないだろう。
トランプ「大統領」はいったいどんなことができるのだろうか。

今朝(東京時間2017年1月5日午前4時頃)、FTのEd Crooksが “US oil industry top lobbies Trump for lighter regulation” という記事を書いているのを見つけ、いそいそと読んでみた。

読後感は「なるほど」というものだ。

トランプ「大統領」が声高く唱えている雇用増につながる政策は、沖合石油掘削の開放とパイプライン建設の推進だろうが、これらのハードルは著しく高い。そもそもこれらの課題はオバマ大統領の前から続いているものなのだ。

業界が実現可能性が高いものとして求めているのは、実質的にコスト削減につながるような、細かな規制緩和のようだ。これとて環境問題との関連があるが、問題が小さいので環境派の動きを大きく刺激することはないだろう。

では、恒例により筆者の興味関心にしたがい、記事の要点を次のとおり紹介しておこう。

・アメリカ石油協会(American Petroleum Institute, API)のジャック・ジェラルド会長は水曜日(1月4日)ワシントンで講演し、米国はいま、中間層の雇用を増やし、収入不平等を解消し、石油ガスの増産をして国家安全保障を強化する「一世代(one generation, 30~35年)に一度のチャンス」を迎えている、と語った。「石油業界に課せられている145の規制などを打ち破り、代わりによりスマートな規制を導入すべきだ」と。

・APIは、国内大手のエクソンモービル、シェブロンや、国際企業のシェル、BPあるいはサウジアラムコの米法人など、約635社をメンバーとする石油業界でもっとも影響力のある団体だ。

・トランプは、石油ガス増産に寄与する政策を採るとして、エクソンモービルの最高経営責任者だったレックス・テイラーソンを国務長官に、石油ガス業界に近かったオクラホマ州司法長官だったスコット・プリュイットを環境保護庁長官に指名している。

・ジェラルド会長が、優先度の高い緩和対象規制として指摘したのは、石油ガス生産施設からのメタンガス排出に関する規制と、沖合生産設備での排出規制だ。

・さらにジェラルドは、メキシコ湾以外の、連邦管轄位海域の94%が掘削禁止となっていることが増産を妨げている、と指摘する。

・だがこれらの規制はオバマ政権以前から存在しており、オバマは2010年3月には緩和しようとしたが翌月、BPのDeepwater Horizon大事故が発生してしまった。2015年には、大西洋沖合の掘削を認める動きがあったが昨年放棄された。さらに昨年末には、アラスカの北、北極海の大半と、大西洋岸のバージニア州からメイン州にかけての海域における掘削を永久に禁止する措置を取ろうとした。

・ジェラルド曰く、沖合での石油ガスの掘削が許可されれば、80万人の雇用が創出でき、連邦政府収入は2000億ドル増加する。

・環境派はオバマ政権に、カナダから米国へのキーストーンXLを拒否させ、ダコタ・アクセス・パイプライン(P/L)の建設を遅延させた。また、米国北西部でのガスP/Lプロジェクトも遅延させている。

・ジェラルドは、P/Lプロジェクトは雇用を増やし、消費者のエネルギー価格を下げるのだ、と主張している。

ふむふむ。

一般大衆に受けるのは、連邦管轄の沖合における掘削問題と、パイプライン建設問題だろうが、これらのハードルは高い。パリ協定の「破棄問題」と同様、国中あげての大議論が起こるだろう。仮に実現できるとしても、長い時間が必要だろう。
業界としては、既存の生産設備等でのガス排出規制を緩和してもらえれば御の字なのではなかろうか。まちがいなくコスト削減=収益増につながるからだ。だが、雇用増には繋がらないし、政府収入増にもつながらない。だからトランプも声高には唱えないのだろうな。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年1月5日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。