ニュージーランドに日本の「軍用機」は売れるか?

清谷 信一
p-1 哨戒機(海自サイト)

輸出が検討されているP-1哨戒機(海自サイトより:編集部)

P-1とC-2、ニュージーランドと交渉開始か 対抗はP-8とA400M
http://flyteam.jp/news/article/73115

政府は海上自衛隊に導入されたP-1哨戒機、航空自衛隊に導入されたC-2輸送機について、ニュージーランド空軍への導入をめざした交渉を開始したと、2017年1月3日付けの日経新聞が伝えています。ニュージーランドはP-3Kの更新でP-1と737をベースとしたP-8哨戒機、C-130Hの更新でC-2とエアバス・ディフェンス・アンド・スペースのA400M輸送機がそれぞれ提案する模様です。

ニュージーランド空軍は現在、P-3K2を6機、C-130Hを5機、保有・運航しており、この11機分を更新するとみられます。日経記事では、防衛省と川崎重工の担当者がニュージーランドで基本性能について情報提供し、交渉を進めているとし、一部の部品での共同生産の検討も行う可能性を伝えています。

結論からいえば、無理でしょう。

まず哨戒機ですが、P-8は本来ニュージーランドにはオーバースペックですが、オーストリアとの相互運用性を確保するためならば、P-8でしょう。コストを考えれば既存のP-3Kの近代化が一番安上がりでしょう。あるいはボーイングが他に提案しているリージョナルジェットにP-8のシステムを搭載したものとか。

ただそうはいってもP-8は基本737なので機体自体の運用コストはそうたかいものではありません。

P-1は何しろ機体も、システムは日本製、エンジンも専用で4発だから極めて運用コストが高価です。
輸出を期待する人たちは運用コストの高さ、つまりはカネの話がわからない。

システムは欧米系に総とりかえとか要求される可能性が高いでしょう。
仮に日本製のシステムを搭載するならば、恐らくは長きに分かってアップデートされないでしょうから、不満がでるでしょう。我が国では採用して用途廃止になるまで熱心に近代化をすることが少ないですから、旧式化して、維持費が高いものを黙々と使わざるを得ない。これを外国のユザーが是とするのか。

しかも要求されている機体が少ないわけで、整備コストも考慮すればやはり本命はP-8でしょう。

輸送機も同じです。
わざわざ得体の知れない日本の機体を買う理由はありません。
それにこれまた維持費が高い。エンジンは汎用品を積んでいるのに、C-2の整備・運用コストは想定から跳ね上がっています。

内部の人間によれば、C-2の開発費や調達コストが高騰しすぎており、これ以上調達単価を上がられないので、整備費を盛っているとのことらしいです。納税者をバカにしています。

財務省も馬鹿ではないので、C-2の調達機数はかなり減らされる、早期警戒機型や電子線型なんぞもふざけるなと拒否されるかもしれません。

ニュージーランドに対して、「いやね、運用費が高いのは、国内事情のせいで、本当はもっと安いですぜ」と防衛省かメーカーが説明しますかね?でもその場合、販売単価は上がることになるでしょう。いずれにしても、価格操作をしたことが我が国の納税者にバレることになるでしょう。それを空幕が是とするのか。

そもそもC-17と同じ程度のお値段で、ペイロードは半分以下です。それが更に値段があがるわけで、そんな買い物するするでしょうかね。

A400Mも運用費がかなり高く、それを許容できるでしょうか。
輸送機はC-130JやKC390あたりに落ち着くのではないでしょうか。

MRJの苦戦をみれば、世間様に売れる飛行機を作るのがいかに大変かということが理解できるでしょう。
これが日本の航空業界、そしてそれを指導してきた防衛省の実力です。
率直に申し上げて、大したレベルではありません。

まあ、輸出を通じでダメさ加減がわかった方が、官、メーカー、過大な期待をしている一部の納税者や安倍さんのような政治家にとっては良い薬にはなるでしょう。その意味では輸出して痛い目にあって欲しいと思います。
これは何も皮肉を言っているわけではありません。自分たちのレベルを認識し、早くバカ高い価格の割には使えない装備に多額の税金を突っ込み、国防を危うくしている現実を認識して欲しいと切に願っています。

P-1にしてもC-2にしても、他国の市場経済の洗礼を受けていない「甘ちゃん」な機体です。これがカタログスペックだけでこれが海外に売れると小躍して期待するのは楽観主義を遥かに通り越しております。こういうことを書くと気分を悪くされる方もいるでしょうが、事実ですから仕方がない。

防衛省や判官贔屓の航空雑誌の「大本営発表」を鵜呑みして、ウリナラ・マンセー的な国産兵器に対する過大評価をするのはリテラシーが欠けています。自国の軍事産業の水準は冷静にみるべきです。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2017年1月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。