婚約の成立はいつ?

たまに(本当にたまに)ですが、「婚約を破棄されたので慰謝料を請求したい」という相談者がいました。

最初に問題となるのが、果たして婚約が成立しているか否かという点です。婚約が成立していなければ「破棄」もへったくれもなく、当然慰謝料は認められませんから。

婚約も契約の一種であり、当事者が真摯に結婚しようという意思があれば成立するいうのが判例・通説です。結納を取り交わすいうような儀式は原則として不要です。

もっとも、当事者に「結婚する真摯な合意があった」かどうかは、当事者ならぬ裁判官には到底わかりませんよね。単に「結婚しよう」「お受けします」という会話があっただけで婚約が成立したと判断することはできません。その合意が真意による「真摯な合意」であるか否かが最大の問題になるのです。子供同士が「将来結婚しようね」と誓い合った程度ではダメなのです。

よく挙げられる否定例として「ピロートーク」(判例では「睦言」と表現されることが多いようです)が挙げられます。性的関係を持つ前や持った後に「結婚しよう」「ええ」という程度のでは真意に欠けるというのです。お互い熱くなっているおり冷静な判断能力が欠けているということでしょうか?性的関係を持ったあと「結婚しよう」という手紙を書いた場合にも婚約の成立を否定した判例もあります。

逆に、性的関係が全くなくとも、公式の場で結婚を誓い合えば婚約成立が認められるケースもあります。会社の上司の前で誓い合ったり、どちらかの両親の前で誓い合ったりするようなケースなどです。

一般に、①婚約指輪を渡した。②結婚式,共同生活に向けた具体的準備や予定を進めていた。③継続的な性的関係(妊娠・出産に至った)④両親などの親族に結婚する旨挨拶した。⑤知人・友人に結婚することを説明(公表)した。⑥『結婚』に向けたイベントで出会った。というような具体的事実が付け加わると「結婚の合意」が婚約と認められる場合が多いようです。

婚約したと誤解されては困る人は、せいぜい睦言の範囲で止めておくのが無難です。
逆に、婚約を主張したい人にとっては、友人・知人に「婚約者として紹介」するのが手っ取り早いでしょう。昨今は、継続的に性的関係を続けていても同棲していても、婚約の成立が否定されるケースが多いですから。

もっとも、婚約不履行に関する事件を私は一度も受けたことがありません。

婚約のための儀式や結婚準備でたくさんのお金をかけてしまったような場合は別として、そうでない場合に認められる慰謝料はせいぜい100万円〜200万円というところです(100万円という判例が多いようような印象を持っています)。若い貴重な時間をかけて、弁護士費用を払って、100万円を取ろうとするのは決してクレバーな戦略ではないでしょう。

訴訟を引きずっていると、解決するまでは心が晴れず新たな出会いに躊躇してしまいます。心機一転、未来に進むことをお勧めしていました。

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荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年1月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。