同外相は、「特に、学校内のスカーフ着用は禁止すべきだ。若い生徒たちへの見本となり、影響もあるからだ。わが国は宗教を尊重する国だが、同時に世俗国家だ」と説明。学校の教室内の十字架については、「十字架を問題視することはない。学校内の十字架は歴史的に生まれてきた文化であり、憲法でもその点は保証されている」と述べた。
ちなみに、仏ストラスブールの欧州人権裁判所(EGMR)の大審議院は2011年3月18日、公共学校で十字架をかけることを違法とした2009年11月の判決の再審結果を公表し、「公共学校で十字架をかけることは欧州人権憲章第2条1項の教育権に違反しない」との判決を明らかにしている。
クルツ外相の提案に対し、フォアアルベルクのマルクス・ヴァルナ―州知事やシュタイアーマルク州のヘルマン・シューツェンへ―ファー知事は既に同意を表明している。
スカーフ着用禁止が「宗教の自由」に違反するのではないかという批判に対しては、「公共施設内でスカーフを着用することは認められない。スカーフは宗教的シンボルではなく、政治的イスラム教を表示するからだ。『宗教の自由』を蹂躙するものではない」という見解が聞かれる。
クルツ外相(国民党)は公共場所のスカーフ禁止だけではなく、ブルカや二カブなど体全体を隠す服の着用禁止、イスラム過激主義者サラフィストのコーラン配布禁止、難民の社会労働義務なども統合協定に挿入したい意向という。
外相の提案に対し、「オーストリア・イスラム教信仰団体」(IGGO)のイブラヒム・オルガン会長は、「反統合、差別といった全く間違ったシグナルを発信することになる」と指摘し、「外相の提案は統合協定ではなく差別協定だ。イスラム教徒への国民の目はテロ事件で厳しくなっている。イスラム教一般への不安や恐れをイスラム教女性が背負っていかなければならないとしたら不快なことだ」と批判している。
クルツ外相の「十字架はOK、スカーフは禁止」という主張は、難民・移民が殺到している今日、国民の支持は得られやすいが、少数宗派への配慮を忘れている。同時に、欧州のキリスト教社会に住むイスラム教徒はホスト国の宗教的慣習、感情を尊重しなければならない。自分たち(少数宗派)の権利を要求する前に、キリスト教社会への統合という義務を果たさなければならない。異教徒社会に統合できないというのなら、欧州社会から厳しい扱いを受けたとしても仕方がないだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年1月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。