ネットの公共政策を共有する仕組みを

年末、DeNAのキュレーション(まとめ)サイトで、不正確な内容や著作権侵害の疑いが発覚した問題に端を発し、サイバーエージェント、リクルート、KDDI等のサイトでも終了・公開中止が相次いでいます。

今回のキュレーション騒動には思うところがあります。グレーな領域のビジネスを進める新興企業の責任と世間や制度との折り合いをどうつけるか。その繰り返しがやまないな、と。

10年前の青少年ネット安全のときも、5年前のコンプガチャのときも、同様のIT企業群が同様のビジネス展開で同様の対処を求められました。みんなでやって、一線越えて、バシーンといかれるパターン。

ただ今回は行政介入ではなく、界隈のネット系のかたがたが糾弾した点が異なります。行政の動きがない分、油断が過ぎ、コトが大きくなってしまった面もありましょう。

青少年のときは安心ネット協やEMAを、コンプガチャのときはJASGAを作って、民間の自主規制で乗り切ろうとしました。ぼくはそれらに参加して、調整に汗をかきました。今も乗り切る努力が続いています。業界の自浄能力を示すことが重要でした。

炎上対策もしかり。2012年に「ニューメディアリスク協会」(炎上協会)を作って官民連携策を進めたのも、同様のアプローチでした。

今回は各社が独自にサイト閉鎖などの対応を見せてましたが、業界としての対策も求められましょう。国会や行政も問題視するでしょうし。

例えば業界が本気でこの著作権問題をどうにかすべきと考えるのなら、ユーザの訴訟費用を業界として補填する基金を積んだっていいじゃないですか。

あるいは訴訟に至らない事案を扱うADR的な仕組みを業界として整えたっていいじゃないですか。

(キュレーションの自主規制団体設立をぼくが進めるという噂が立って、取材申し込みもありました。いえいえ。業界の飲み会で、そういうことを、もうぼくじゃなくて、誰か若い人やんなさいよ、と言っただけです。)

シェアリングエコノミーも似た局面にあります。シェアリングエコノミーは業法的にグレーな領域でみんなの資源を活用するビジネス。グレーだからこそうま味がある一方、問題の発生も予期され、自主規制など民間の対応が求められるとともに、政府との連携策も検討されています。

これは民間サイドからの求めもあり、政府IT本部に設けられた委員会で議論が進められました。いい対応でした。

しかし、こうした個別の問題に、個別の業界対策や自主規制を施すのではダメなのかもしれません。ネットの重要性はこれからも高まります。こうした個別の問題がこれからも発生するでしょう。その総合対策を考える場面でしょう。

ネットを使ったビジネスの問題は、いわゆるIT企業だけでなく、ユーザ企業のITシフトが高まるにつれ、関係者の範囲が広がり、課題も拡散していきます。だからワンストップの解決法が定まりにくいことは承知しています。

しかし、だからこそ、こうした対策を機動的に打てるように、通信会社やIT企業のおおどころが公共政策を共有するともに、政府とも向き合う、総合的な民間の仕組みが求められます。緩い協議体でもいいので、お願いしたいところです。

今回の一連の問題に対し福井健策さんは「情報革命と言われる社会の必然的なコスト」ととらえる。そのコストをどう抑えるか、ぼくらの知恵が問われます。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/346926/120900732/


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2017年1月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。