「事前入札取得」でなぜ株価が下がるのか?

今朝の日経電子版が「国際石油開発帝石 おっかなびっくりのイラン再参入」と題する記事を掲載している(2017年1月11日5:30証券部神野真也記者)。

イラン国営石油(NIOC)が近々石油ガス開発の入札を行うにあたり、事前格審査(Pre-Qualification=PQ)に合格した29社を発表したことと、トランプ氏の記者会見が米国時間の今日行われることを受けての記事だろう。

本件に関連して、筆者は1月3日に「#300 トランプの強硬姿勢にBPはイラン取引に参加せず」というブログを書いた。入札ではなく相対交渉により、トタールやシェル、CNPA(中)、ONGC(印)やロスネフチ(露)などが別途各種契約を結んでいるが、イラン石油産業の祖ともいうべきアングロ・ペルシャ石油の末裔であるBPは、今回入札のPQ取得も行わなかった、というFTの記事を紹介したものだ。

NIOCのHPには「Pre-Qualification Public Announcement」が掲載されており、29社が英語のアルファベット順に発表されている。

一覧して興味深いのは、米国勢は海外子会社を含め皆無、大手国際石油はトタール(仏)、シェル(英蘭)とエニ(伊)など、また国営石油としてペトロナス(マレーシア)、PTTEP(タイ)、ONGC(印)、ペルタミナ(インドネシア)などの名前があり、国別では中国の4社(CNPA、CNOOC、CNPW、Sinopec)、ロシア(Gasprom、Lukoil)および韓国の2社(Kogas、PoscoDawee)に対し、日本が5社と最大となっていることだ。

日本勢は本記事にある国際石油開発帝石(Inpex)に加え、石油資源開発(Japex)、伊藤忠商事、三菱商事、三井物産がPQを取得している。

日経記事には次のような記載がある。

「米国とイランの関係は改善したが、制裁が完全に解除された訳ではない。ドル決済は依然として規制され、米・イラン関係が再び緊張すれば、投下した資本は引き揚げられなくなるリスクもある」

「日本の株式市場でもリスクを意識されている。国際石開帝石がイランに再参入する可能性があるとの情報が伝わった5日、同社株は下落した。『イラン情勢の先行きが見えない』(国内証券)と懸念する声は多い」

「11日はトランプ氏の記者会見が予定されている。トランプ氏がイランにどう言及するかは、国際石開帝石を含めた世界の資源会社の投資行動や株価に大きな影響を与えそうだ」

とても残念な記事だ。
事前入札資格(PQ)審査に合格した、ということは、電車に乗る切符を買った(買えた)だけの話だ。まだ何も始まっていない。このニュースで、PQ取得会社の株価が下がったという話は、海外のどこからも聞こえてこない。日本の株式市場では、石油資源開発、伊藤忠商事、三菱商事および三井物産すべての株価が下がったのだろうか?

PQ取得会社が確定して次に行われるのは、入札対象となる鉱区の情報開示と、PQ取得会社による個別の調査、評価作業だ。並行して、契約条件の交渉がある。日本各社は、自分たちが興味を持つ鉱区の選択を行い、同鉱区のオペレーター(操業主体会社)を含むコンソーシアム形成を行わなければならないだろう。またイランの「新石油契約」に基づき、鉱区開発契約の契約当事者となる地元イラン企業との合弁会社を形成する必要がある。
やらなければならないことがまだまだたくさんある。

さらに、合弁企業の株主として間接的に鉱区権をノンオペ・パートナーとして取得したとしても、まずは相対的に資金のかからない地震探査や試掘などの探鉱作業(手金のみ)を行い、作業結果を評価してのちに、資金のかかる開発作業(融資可能)へ移行するかどうかの最終投資判断(Final Investment Decision=FID)を行うことになる。おそらく数年先のこととなろう。

つまり「投下した資本」を引き揚げられなくなる可能性があるのは、このFIDの後、早くても数年後のことなのだ。
PQ取得会社が「そこから先に進まない」と決定できる機会は、これからFIDまで、まだまだたくさんある。事情変化に応じて、経営戦略を変更していく必要がある。石油開発事業とはそういうものなのだ。

BPが、現時点で参入しない理由を「商業的判断」に基づくものとし、「他にも多くの魅力的な投資機会がある」というのは宜なるかな、である。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年1月11日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。