米東部時間11日午前11時(日本時間12日午前1時)に米国の次期大統領となるドナルド・トランプ氏が米大統領選で勝利してから初めて、公の場で記者会見を開いた。金融市場だけでなく世界中の多くの人々が、その会見の内容に注目していた。
トランプ氏はこれまで過激な発言を続け、その過激な発言そのものが大統領選挙ではむしろ追い風になった面もあったとみられる。大統領選後は公の場での発言は控えていたが、ツイッターを利用して「トヨタは米国向けカローラを生産するためにメキシコのバハに工場を建設しようとしている。あり得ない!」といった批判的な書き込みをしていた。今回のトランプ氏の会見では日本に対して具体的な言及はなかったが、貿易不均衡の相手先として中国やメキシコとともに日本も言及しており、貿易に絡んでの批判を強めることは予想される。
金融市場では減税を含めた経済政策に関して何かしら具体的な示唆があるのかどうか注目されていた。こちらについても具体的な言及はなかった。11日の米国株式市場やドル円はトランプ氏の会見を受けて乱高下したが、これは内容そのものよりもアルゴリズム取引などによる影響もあったのではないかと思う。結果として11日のダウ平均は98ドル高、ナスダックも11ポイント高と高値を更新した。一時114円20銭台あたりに下落していたドル円は115円台に戻している。ただし、チャートをみるとみのドル円や日経平均は多少の調整を余儀なくされる可能性はある。
このトランプ氏の経済政策を期待して、景気の回復と物価の上昇を睨んだ動きがトランプラリーとかトランプ相場と呼ばれた。昨年の大統領選挙の結果を受けての米長期金利やドル、米国株式市場の上昇などを総称したものであった。これは東京市場もその恩恵を受けた格好となり、ドル円は11月9日につけた101円台から12月には118円台に急上昇した。日経平均も11月9日に16000円近くまで売られたあと急速に切り返し、今年に入り2万円に接近した。
これらの動きだけをみると2012年11月に発生したアベノミクス相場と類似している。このときも安倍自民党総裁のリフレ発言で、物価の上昇や景気の回復が意識されて、急速な円安と株高が起きたとされた。しかし、これらの動きはトランプ氏の政策(まだ具体化もしていない)や安倍首相の政策(そもそも物価は上がっていない)が、具体的な効果を発揮したというよりも、大きな流れが変化しつつあるときの起爆剤のようなものになったに過ぎないと私はみている。
トランプラリーが期待感だけであり、ここにきてドル高や米金利高、株高などにブレーキが掛かったことで、すでにそれは終わってしまったとの見方も出ている。しかし、それはまだ結論づけることはできない。トランプラリーと呼ばれた金融市場の動きの背景にあるのが、世界的な危機の連鎖の終焉とそれらによる正常化の流れによるものとみれば、その流れは簡単には止まらないとみている。
米国株式市場をみてみると、ここにきてややダウ平均はブレーキが掛かっていたが、ナスダックは連日の高値更新となっている。トランプ政権と変わるとアップルなど世界的なハイテク企業に対しての圧力が加わるとの見方もある。ところがそれらハイテク企業の株も買われているのは、やはり景気そのものの回復も背景にあるのではなかろうか。
米10年債利回りの推移をみると11月に1.7%台あたりにいたのが、12月には2.5%台に乗せるなどやや急ピッチな上昇となっていた。さすがにそろそろ調整が入ってもしかるべきタイミングであったようにもみえる。それでも米長期金利がボトムをすでに打っており、今年のFRBにとって複数回の利上げが可能となるのであれば、米長期金利はいずれ3%台に乗せてくる可能性はありうるとみていたほうが素直かなとも思う。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年1月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。