英国ではユーロという単一市場からの離脱の可能性が強まりつつあり、ハードブレグジット・リスクが懸念されている。メイ首相は10月にEU法が英国で適用される欧州共同体法の廃止についても触れており、EU法を廃止するとなれば、単一市場から離脱せざるを得なくなる。
メイ首相は17日の演説で、英国の欧州連合(EU)離脱に向けた計画について説明するとしている。この演説が大きなポイントとなりそうである。英紙サンデー・タイムズは15日、メイ首相が移民流入抑制などのために欧州連合(EU)単一市場から撤退する計画を示すと伝えた。タイムズによると、メイ首相は移民制限やEU以外の国との自由貿易協定を可能にするため、EUの関税同盟からの脱退を準備する方針という(ブルームバーグ)。
英国民が昨年の国民投票でブレグジットの決定をしてしまったことは確かであり、今後メイ首相がどのような手順を踏んで、どのようなかたちでEUを離脱するかに注目が集まる。
メイ首相は昨年10月にEU法が英国で適用される欧州共同体法の廃止についても触れており、EU法を廃止するとなれば、英国は欧州司法裁判所の管轄外になる。
英国はEU単一市場にアクセスする権利を持つ欧州経済領域(EEA)に加盟することでEUの単一市場に残留する可能性を探っていたようだが、これにはEU法への準拠が求められる。つまり英国がEU法を廃止するとなれば、EEAに加盟することでEUの単一市場に残留することが難しくなる。
EUと何らかの経過措置を設けるなどして、ある程度の時間稼ぎは可能となるかもしれないものの、いずれは単一市場から離脱せざるを得なくなる可能性が高い。これがハードブレグジット・リスクとなる。EU圏内での無関税貿易という特権を失うとともに、金融機関がEU内の1国で事業の認可を得ると域内の他国でも事業活動が可能になるパスポーティングと呼ばれる制度が利用できなくなる。
英紙サンデー・タイムズの記事を受けて、アジア時間16日早朝の取引で、英ポンドは下落。昨年10月のフラッシュクラッシュ以来の1ポンド1.20ドル割れとなった。
政府当局者はタイムズに対し、メイ首相による17日の演説がさらなる「市場の調整」を引き起こすと見込んでいることを明らかにしたとも伝えられており、ハードブレグジットの可能性が強まってきた、というよりもほかの選択肢がない状況に追い込まれているともいえるのではなかろうか。
英国のハードブレグジットにより、いまだ欧州の金融の中心地となっているロンドン金融街がどのような変貌を遂げるのか。英国経済の行方にどのような影響を与えるのか。ポンド安は英国経済には好影響として英国株は買われるような状況となっているが、そのような楽観的に見方が本当に続くのか。
20日には米国でトランプ大統領が誕生する。そのトランプ氏は英タイムズ紙のインタビューで、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)は「素晴らしいこと」になると述べ、他のEU加盟国も英国に追随するとの見通しを示した。
今年はオランダ、フランス、ドイツで選挙が予定されている。英国を発端としたブレグジットの動きは米国の後押し?も受けて拡がる懸念がある。その意味においても17日のメイ首相の演説は今後の欧州の動向に大きな影響を与える可能性がある。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年1月17日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像はメイ首相の公式HPから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。