金メダリストの柔道家の「犯罪」

柔道家ペーター・ザイゼンバッハー(Peter Seisenbacher)という名前を思い出す人がいるかもしれない。1984年開催のロサンゼルス大会と88年のソウル大会の2回の夏季五輪大会で金メダルを獲得した柔道家だ。オーストリアの夏季五輪史上、2大会連続金メダルを獲得したスポーツ選手はザイゼンバッハー氏1人だ。文字通り、オーストリアのスポーツ界の英雄だった。同氏の活動に刺激を受け、多くの若い後継者が生まれ、オーストリアは欧州の柔道国となっていった。

▲柔道家ザイゼンバッヒァー氏の容疑を報じるオーストリア日刊紙「エステライヒ」紙2017年1月17日付

▲柔道家ザイゼンバッヒァー氏の容疑を報じるオーストリア日刊紙「エステライヒ」紙2017年1月17日付

その56歳の柔道家が現在、未成年者への性的犯罪で訴えられている。ウィーン刑事裁判所で昨年12月19日、公判が開廷される予定だったが、同氏は出廷しなかったばかりか、その後行方が不明になった。そこで検察側は1月16日、国際刑事警察機構(インターポール)に同氏の逮捕を正式に要請をしたことを明らかにしたばかりだ

同氏の容疑は、同氏が経営する柔道センターに通っていた2人の少女に対して、性的犯罪を犯したというものだ。具体的には、同氏は1997年、クラブのトレーナーとして9歳(当時)の少女に性的接触し、少女が11歳になると、性的行為を強いたという。2人目の犠牲者は13歳の少女だ。ザイゼンバッハ―氏は2件とも否定してきたが、検察側は証言を固め、同氏を起訴したわけだ。

ザイゼンバッハ―氏は五輪大会後、オーストリアのスポーツ支援協会代表に就任。その後、2010年からグルジア、そして12年からアゼルバイジャンの男子柔道ナショナル・トレーナーとなった。トレーナーとして、両国で多数のメダリストの柔道家を育て上げている。

事件は2014年、メディアで初めて報道された。その後、ウィーン検察が捜査を開始した。昨年12月に最初の公判が開く予定だったが、同氏は姿を見せなかったわけだ。
オーストリアのメディア報道によると、同氏は目下、自身のアパートメントがあるアラブ首長国連邦のドバイに滞在中という。ちなみに、同国はオーストリアとの間に犯罪人引き渡し協定を締結していない。

当方は1990年代、ウィーン市内のザイゼンバッハ―氏が経営する武道センターに娘が通っていたので頻繁に訪れたことがある。館内には金メダルが飾ってあった。同センターは柔道だけではなく、空手など複数の武道クラブが入っていた。

裁判の行方は不明だが、ザイゼンバッハ―氏が裁判に出廷し、真相を明らかにすることを願っている。日本で柔道を学んだ柔道家(7段)の蹉跌は心が痛い。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年1月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。