トランプのエネルギー革命は投資家にとってチャレンジ

岩瀬 昇

就任式典まで数時間に迫った東京時間1月20日18:00ごろ、FTが興味深い記事を掲載している。 “Trump’s energy revolution poses challenge for investors” というタイトルの記事だ。”Fossil fuel industry’s glee will be harder to translate into returns” というサブタイトルがついている。

かなり長文だが、筆者がかねて考えていたとおり、トランプになっても有益なエネルギー政策は直裁的には見出し難い、ということのようだ。むしろ税制改革あるいは通商政策変更による影響の方が大きいのだろう。

「トランプ政権移行チームのウエブサイトにある、掘削地域の拡大、許認可プロセスの緩和、あるいは炭素排出抑制の努力を廃止する(すべて反オバマ政策)ことが『エネルギー革命を解き放つ』というのは、未だテストを受けてはいない。供給量が増えれば価格が下がり、結果として投資家は懲罰を受けることになる」という記述がすべてを物語っている気がする(この箇所は以下の紹介では省いた)。

スペースの許す限り、筆者にとって興味深かった要点を、次のとおり紹介しておこう。

・ドナルド・トランプがホワイトハウスに移り住むが、これ以上、化石燃料に友好的な内閣を想起することは容易ではないだろう。エクソンの前社長で国務長官候補のレックス・テイラーソン、前オクラホマ州検事総長で環境庁長官候補のスコット・プリュイットや前テキサス州知事でエネルギー長官候補のリック・ペリーなどが指名されている。

・「化石燃料業界の人たちは喜んでおり、環境派は落胆している」とエネルギー事業を担当している弁護士のジャック・ドウィークはいう。

・業界の喜びは、そのまま投資家の喜びだろうか?

・実態はもっと複雑だ。トランプ政権下での期待利益(return)は、石油、ガス、石炭あるいは再生エネルギーのどれかによって異なる。生産事業は輸送業や精製業とは異なる。細かなエネルギー分野の規制改革より、税制改革や通商政策の方が大きな影響をもたらす。

・「エネルギーとはトリッキーなものだ」と565億ドルの資産を運用する投資会社のマネージャーはいう。だが、ほとんどの資産運用管理者(Money Manager)は楽観視している。11月の投票日以降S&P500エネルギー株インデックスは約1% 上昇した。エネルギー債券も回復している。米国エネルギーファンドへの投資は39億ドル増えている。

・別の資産運用責任者は、政府の経済計画は、エネルギーのような「現実の資産」にとっては追い風のインフレをもたらすだろう、と見ている。

・すべてのエネルギーが偉大になるわけではない。トランプは選挙戦中、安い天然ガスとの競争で破綻した石炭産業の再生を誓っていたが、シェールの掘削が進めば状況は悪くなるだけだ。多くの機関投資家は石炭の将来に疑念を持っている。

・オバマにとっては環境問題の優先度が高かった。彼は油田、ガス田からのメタンガス漏洩を減少させるための規制を推し進めた。連邦管轄地域におけるフレアー(圧力調整のための原油生産時の余剰ガスを燃やすこと)を減少させ、北極海地域での掘削に歯止めをかけ、カナダからのキーストーンXLパイプラインを拒否し、北ダコタ州のダコタ・アクセス・パイプラインを中止させた。だが、オバマ政権下の8年間、原油生産は570万BDから約890万BDへ(日本の消費量は約400万BD)、天然ガス生産は日量575億立方フィート(LNG換算約4.4億トン)から723億立法フィート(同5.54億トン)へ増産した(日本のLNG輸入量は約8,500万トン/年)。また原油パイプラインは約39%伸びている。

・最近施行されたフレアーの規制などすぐに廃止できるものもあるが、多くのものは廃止に時間がかかる。どのようなことがあろうとも、ほとんどのシェールの生産は、連邦政府ではなく州政府に管轄権がある民間の土地で行われている。

・「石油ガス産業にとって連邦政府の規制は大きな要因ではない」とドウィート氏はいう。

・税制や通商に関する決定は劇的な影響を与えうる。たとえば税制上有利な処遇を受けているパイプライン・パートナーシップの魅力が変更されるかもしれない。共和党が提案している「国境調整」税は、おそらく米国精製業者にとって輸入原油コストを押し上げることになろう、とアナリストは言う。

・環境派は顔をしかめているかもしれないが、風力及び太陽光への連邦優遇税制は少なくとも3年間は有効だし、米国の半分以上の州が再生エネルギーの命令(mandate)を保持している。

はてさて就任式典での演説で、エネルギー関連の政策が一つでも謳われるのだろうか。
明日の朝が楽しみだな。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年1月20日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。