安倍政権は米リベラルへの保険は常に忘れるな

八幡 和郎
安倍&オバマ

首相官邸サイトより(編集部)

夕刊フジの連載第四回は、トランプ陣営の発足に当たってのアメリカなど各国との外交関係を総括したが、それに大幅に加筆して掲載する。

ドナルド・トランプが日本時間で21日に大統領に就任した。選挙戦中から厳しい批判を繰り広げた西欧の首脳たちと違って安倍首相は選挙期間中にトランプを批判しなかったし、いち早くニューヨークで個別会談もしたので、相対的には良い立ち位置にある。

これからも、トランプにとって相対的に好ましい指導者であることは難しくないと思われる。
そのときに、忘れてはならないのは、アメリカのリベラル派から白い目で見られないように、民主党人脈に対しても目配りをすることだ。

これまで民主党政権と日本は悪いことが多かったのに、安倍首相はケネディ大使の尽力もあるが、上手に乗り切ったのだから、それを無駄にすべきでない。

だいたい、日本政府は各国の野党とのパイプを維持するのが下手だ。岸信介が不遇の時代のニクソンに弁護士としての仕事を斡旋していたとかいう話があるが、普通には、掌を返したように冷たくする。

私はパリで仕事をしていたときに主として社会党政権だったが、政権交代が予想されていた。そのために、保守側の有力者対策もしたし、また、逆に社会党政権が下野しても有望株とのパイプが切れないようにする手立てを用意して置いたが、あまりフォローされなくて残念だった。

アメリカでの政権交代でも、共和党人脈があまりにも細くなっていたようだ。野党の有力者を招聘すると、時間的余裕もあり、非常に喜んでもらえるのが普通だから、どんどんやればよい。

また、トランプと同調も大事だが、その仲間だとアメリカのリベラル派やヨーロッパからいわれないように、リベラルな指導者たちとも、共通の価値観をもつところを見せておきたいところだ。その意味で、シチリア・サミットでの安倍首相がうま立ち回り主導権をとりたいところだ。

ロシアとの交渉は簡単でないが、プーチン大統領が辞めたあと、日本にとっていまより好ましい状況はないだろうというのだけは確かだ。

中国では、胡錦濤は幹部に蓄財を許すことで権力を維持したが貧富の差や資本流出が拡大した。習近平がそれを強く統制しようとしたのは正しいが、経済改革につき日米などに助力を求めれば良いものを、不満をそらすために勢力圏拡大という外交・軍事的成功を追った。一帯一路など、大東亜共栄圏の焼き直しだ。

日米は絶対に許さないという強い対応が必要だが、一方で、覇権主義をやめるなら経済再建に協力する姿勢をつくっていくべきだ。中国を政治的には控えめだが経済発展を重視する高度成長期の日本のような生き方へアメとムチで誘導すべきだ。また、中国人は面子は大事にしてやらないとダメだということは忘れてはならない。

それに対して、韓国は強く出ないとエスカレートするだけだ。歴史観など古代史から日本の立場を主張して媚びないほうがよい(参照:拙著「誤解だらけの韓国史の真実」イースト新書)。

そんななかで、帰化したかどうかを問わず在日コリアンが両方の理解者として立ち上がって欲しい。在日のコリアンが、向こうの側に一方的につくか、さもなくば沈黙するのは遺憾きわまりない。

その意味で、民団が釜山の少女像撤去の要求に立ち上がってくれたことは希望を感じさせる。李明博元大統領も金正恩の母親も大阪生まれだし韓国焼き肉も大阪が発祥だ。孫正義のような発想のビジネスマンは、日本で育ったコリアンという化学反応のなかから生まれたのだと思う。

在日コリアンはニューヨークのユダヤ人やイタリア人と同様に、いまやそれ自体が世界で大きな存在だという意識で、日韓の新しいステージをつくって欲しいと思う。

日本人の知らない日米関係の正体 本当は七勝三敗の日米交渉史 (SB新書)
八幡 和郎
SBクリエイティブ
2016-05-06