「邪魔だからベビーカーたためよ」→こども用車椅子なのに・・・

駒崎 弘樹

医療的ケアのある子どもたちに、障害児保育を提供しているフローレンスの駒崎です。

障害児のお母さんから、こんなことを聞きました。

「少し混んでいる電車に、子どもと乗ったら、『混んでるんだよ。邪魔だからベビーカーたためよ』と怒られました」

「お店に入った時に、『場所を取って他のお客様のご迷惑になるので、(ベビーカーは)お控えください』と店員さんに言われました」

こども用車椅子(バギー型車椅子、通称バギー)が、よくベビーカーと間違われるということなんです。

ベビーカーとこども用車椅子

これを機会に、ベビーカーとバギーの違いを見てみましょう。

こちらが一般のベビーカーです。

一般ベビーカー-thumb-600xauto-2170

そして、こちらがバギーです。

こども用車椅子-thumb-600xauto-2172

少しバギーの方が大きい感じがしますが、ぱっと見は見分けがつきづらいかと思います。

しかし、このこども用車椅子は、ベビーカーと同様に、あるいはそれ以上に子ども達や親たちには欠くことのできない道具です。

こども用車椅子の意義

バギーを使う子ども達は、首が座っていなかったり、寝たきりであったり、姿勢が固定できなかったりします。そうすると、一般のベビーカーはもとより、普通の車椅子でもフィットしません。

その子どもの障害に合わせて背もたれの角度を変えられたり、姿勢を固定できる、ということが大きいです。

また、医療的ケア児の場合は、人工呼吸器などの医療デバイスを常に持ち歩かなくてはいけないので、デバイスごとバギーに入れておける、というのは移動するのに非常に助かります。

重度障害児の親にとっては、バギーがなければ、子どもを連れての移動は非常に難しくなるのです。

バギーがわりにベビーカーを使うことも

重度障害児の中には、先天性異常で体が大きく成長せず、長くバギーを使う子もいます。そういった子どもの中で、姿勢も安定して、医療的ケアもそこまでない、という子であれば、一般の重量の軽いベビーカーを使う場合があります。

また、外部からは分かりませんが、心臓疾患で長い距離を歩けない子ども達も、比較的大きくなってもベビーカーに乗ります。そうした場合のベビーカーは、実質的にはバギーと同様の役割を担っていると言えるでしょう。

ベビーカーに優しい社会は、車椅子にも優しい社会

そういったケースの当事者からして見たら、「ベビーカーで混んでるところに来るな」「電車でたためよ」等の言葉は、非常に抑圧的に響くことになります。

バギーを利用する子どもの多くは首が座っていなかったり、医療デバイスがついていて、バギーからすぐには降ろせない子ども達です。またベビーカーをバギー代わりに使う子ども達にとっても、ベビーカーは命綱です。

ベビーカーに厳しい態度をとる人々は、ベビーカーとバギーの違いも、ベビーカーが車椅子の代替になっている現状も知らない場合がほとんどなので、多くの障害児家庭を萎縮させ、嫌な思いを感じさせている側面もあるのです。

ベビーカーに優しい社会は、こども用車椅子にも優しい社会だ、と言えるでしょう。

当事者からの発信

バギーが一般の人からは分かりづらいため、マークが作られています。「バギーマーク」です。

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医療的ケア児の当事者のお母さん達が作っていて、ネットでも販売しています。自分たちは子どもの介護で大きな負担を負っていながら、バギーに対する無理解から辛い思いをしたことをきっかけに、バギーマークを作って、社会の理解を得ていこう、と活動をしています。

こうしたマークがあったら、周囲の人たちは「あ、子ども用車椅子なんだ」と気づけますね。

*バギーマークを販売する mon mignon peche

次の一歩

バギーや障害児家庭の移動という問題について、我々ができることはあります。いくつかあげてみましょう。

多くの人に知ってもらうため、シェアやRT

バギーについては、まだまだ全然認知がされていないので、知ることから始まります。お友達と話したり、この記事をSNSで拡散することで認知を広げていきましょう。

階段などをバギーやベビーカーを担いで登っている人がいたら手を貸す

バギーは子どもを乗せていると15キロ以上になることもあるので、階段にぶち当たると絶望的な気分になります。少し照れくさいですが、「手伝いましょうか?」と声がけするのも良いでしょう。

サービス業・交通機関の会社においては、研修等を実施する

店舗スタッフの方に、「たたんでください」と言われたりすることもまだ多く、そうした場合は悪気があるというよりも、単にスタッフの方が知らないだけなのだと思います。よって、接遇研修等でそうしたことにも触れて頂くのが良いでしょう。

また、バス等でもたためないことから、乗客の方に白い目で見られることが多々あるようなので、その際には運転手さんから「子ども用車椅子の方がいらっしゃいますので、お詰めいただきご乗車ください」と言ってもらえたりすると助かりますよね。こうしたことも、交通機関の職員研修等に入れてもらえたら良いな、と思います。

歩きタバコはしない

バギーやベビーカー利用者にとって、歩きタバコは恐怖です。子どもの至近距離に火が来て、本当に危険です。また、障害児の場合は呼吸器がとても弱い子もいて、副流煙が暴力になります。タバコは決められたスペースで吸って頂きたいです。

まとめ

昔は盲導犬はぎょっとされましたが、認知が広がり当たり前のものになりました。また、つい30年前は大人用車椅子が電車に乗る時は、いちいち数日前に国鉄に許可を取らないといけなかったのですが、社会運動によって、今では当然のように駅員さんのサポートがつきました。

子ども用車椅子について多くの人々が認知して、時にサポートして、誰もが普通に外に出て買い物できる、仕事や学校に行ける、大切な人に会いに行ける、そんな社会を創りたいです。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2017年1月22日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。