トランプ氏にバチカンも困惑気味

長谷川 良

米国でトランプ大統領が就任したが、新大統領を「われわれの大統領ではない」と主張する抗議デモが米全土で広がっている。米国発のニュースによると、ワシントンだけでも約50万人の女性たちが21日、「女性の権利」を要求してデモを行ったという。昨年11月の米大統領選は米国社会を保守派トとリベラル派に2分したが、ここにきてトランプ氏に対して「女性の権利」を訴える運動の様相も帯びてきた。

▲親の代からの聖書の上に手を置き宣誓式に臨むトランプ新大統領(2017年1月20日、CNN放送の中継から)

▲親の代からの聖書の上に手を置き宣誓式に臨むトランプ新大統領(2017年1月20日、CNN放送の中継から)

ところで、トランプ新大統領に対して、世界12億人以上の信者を有するローマ・カトリック教会でもその評価は分かれていることが明らかになってきた。
南米出身のローマ法王フランシスコは、22日付のスペイン日刊紙「エルパイス」とのインタビューの中で、「米国の新大統領に対する評価は発言ではなく、その行動によって測られるべきだ。米新大統領に対し恐れたり、喜んだりすることは賢明ではない」と述べ、早急な人物評価を一応避けている

米大統領選前、ソーシャル・メディアで「フランシスコ法王はトランプ氏を支援している」といったフェイクニュースが流れたが、法王自身は今回のインタビューの中で、現在のポピュリスト的な傾向を厳しく批判し、「ヒトラー時代と同じ傾向が見られる。人々はわれわれのアイデンティティとは一致しない救世主を願う。壁を建設してわれわれのアイデンティティを奪う他の民族の侵入から守ろうという。これは非常に良くない」と強調し、暗にトランプ氏の政治信条を批判している。

米国では反トランプ派の「女性の行進」が広がっているが、ワシントンで開かれた同行進には多数の修道女の姿が目撃されたという。彼らはトランプ新大統領の女性軽視の発言や民族主義的な言動に強い抗議を表明している。

また、独ケルン大司教区のライナー・ヴェルキ枢機卿は、「米国を再び偉大な国にする」というトランプ氏に対し、「偉大になろうとする者は全ての人々に奉仕すべきだ」と述べている。 また、独ニーダーザクセン州南部ヒルデスハイムのノルベルト・トレレ司教は新大統領の就任演説を聞き、「当惑した」と述べている、といった具合だ。

カトリック教会は反トランプ派だけではない。人工中絶に強く反対するトランプ氏を全面的に支持する声も少なくない。興味深い点は、反トランプ「女性の行進」に参加した女性の権利擁護者の中には死刑に反対する一方、胎児の命を殺す人工中絶を「女性の権利」として擁護する活動家が少なくないことだ。

トランプ氏はプロテスタント派の長老派教会に所属している。幼い時から聖書に強い関心があったという。就任式には親の代からの聖書を持参し、その上に手を置いて宣誓式に臨んでいるほどだ。

蛇足だが、トランプ新大統領は飲酒、たばこ、麻薬には手を出さないという。ただし、トランプ氏の名前がついた「トランプ・ウォッカ」は売りだされたことがある。アルコール類を摂取しない実業家のウォッカ・ビジネスは結局はうまくいかなかったと聞く。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年1月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。