トランプがエクソン成長の道を切り開くのか?

岩瀬 昇

1月23日の朝、起きてすぐにFTのEd Crookが書いた記事を読んだ。あれ、彼はこのエネルギーブログを読んでいるのだろうか、と一瞬妄想に襲われた。昨夜おそくに書いた『#311 露ヤマルプロジェクト:砕氷LNG船が試験航海に』の文末で、米国がクリミア併合を強く非難し欧州勢と共に実行しているロシア制裁を、まさかトランプ大統領が解除することはないよね、とコメントしたのだが、Edは “Rex Tillerson, ExxonMobil and separation of oil and state” (Jan 23, 2017 around 04:30am Tokyo time) という記事を、テイラーソンができなかったエクソンの成長への新分野(ロシアの石油開発)進出を、トランプ大統領が切り開く手助けをできるかも知れない、と締めくくっているのだ。

原文はきわめて長いものだ。上院外交委員会公聴会での質疑も終わり、当初疑念を呈していた共和党の有力議員も「承認」に傾いているので、1月23日にも国務長官就任が正式に承認されるだろう、と紹介している。その上で、見出しにあるように、テイラーソンの人となり、エクソンという会社の企業文化、石油事業と国家の外交とを分離して立ち向かえるのか、という問題を広範にカバーしている素晴らしい記事だ。読者の皆さんにはぜひ時間を見つけて読んでいただきたい。

文字数制限があるので、ここではテイラーソンが国務長官に就任するにあたり呈されていた疑念、すなわちロシアとの関係および気候変動問題についての箇所を中心にかいつまんで紹介しておこう。

・テイラーソンが頭角を表したのは1998年、ロシアおよびカスピ海担当役員になってからのことだ。シェル主導の「サハリン2プロジェクト」は完工スケジュールが1年遅れ、所要資金が予算の2倍の200億ドルとなったのに対し、テイラーソンがリーダーシップを取った「サハリン1プロジェクト」は、スケジュール通り完工し、予算超過も30%で抑えることができた。パートナーであるロスネフチなどロシア側との好関係も維持し、「サハリン2」が支配的権益(50%+1株)まで売却させられたのに対し、「サハリン1」は介入されることもなく、順調に操業している。

・テイラーソンは、12年間君臨し名経営者として謳われたリー・レイモンドが2005年末に退任したあと、CEOに就任した。当時は、動きの機敏な中小事業者が先導したシェール革命の進行と、再生エネルギーや電気自動車を政府が後押しする気候変動問題への対応など、大手石油会社としてきわめて困難な時期に遭遇していた。

・テイラーソンは公聴会の場で「気候変動のリスクが存在する」ことについては受け入れている。

・エクソンの課題は、巨大規模の会社としていかに成長を維持するか、という点にある。昨年、この問題が顕在化した。生産量は横ばいになり、2020年まで同水準だろうと発表せざるを得なくなった。一方、2015年の生産量が補充できた埋蔵量を上回り、22年ぶりに保有確認埋蔵量が減少した。さらに2016年11月、16年末の保有確認埋蔵量も19%減少するかもしれないと警告せざるをえない状況となった。石油・ガス価格の低下により、採算を確保して生産に移行しうる見込みがなくなったものが増えたからだ。

・噂となったアナダルコやオキシデンタルの買収は油価・株価上昇によりなくなったが、明るさがないわけではない。最近ギニア沖で石油換算14億バレルが期待できる油ガス田を発見し、パーミアン地域では66億ドルで34億バレル相当が期待できる鉱業権を所有する会社を買収した。

・BPがパートナーの反対で、すでに合意済みだったものから撤退せざるを得なくなったロスネフチとの共同事業を、テイラーソンは2011年にチャンスを掴んで引き継ぐことに成功した。プーチンの盟友である同社のトップ、イゴール・セチンとの好関係が功を奏したのだ。共同事業とは、西シベリアのシェール開発であり、黒海及び北極海の石油開発である。だが2014年、ロシアのクリミア併合を非難する米国のロシア制裁により頓挫を余儀なくされている。

・これらのロシア事業は、これから何十年も成長を維持できる可能性を持つものと考えられていた。米国が2014年にロシア制裁を課したことにより、すべて頓挫してしまい、エクソンにとっては大きな痛手となった。エクソンは、これは一時的なものとし、10億ドルの関連資産の償却も永久的なものとしては処理していない。もし制裁が解除されれば、エクソンにとっては大きな後押しとなる。この問題についてトランプは何度も白紙(open)だと表明している。

・テイラーソンは公聴会で繰り返し、エクソンモービルのためではなく、アメリカ国民の利益のために働くと証言している。彼はまた残余の1億8000万ドルの退職金(compensation)を株式ではなく現金で受け取り会社との経済的関係を断つ、としている。だが彼は、制裁には疑念を持っていることも明らかにしている。2014年5月、エクソンの株主に対し「一般論としてエクソンは制裁を支持しない。なぜなら制裁はよほどうまく実行されなければ有効なものとならないからだ」と述べている。

・テイラーソンは2014年から2015年にかけて、5回ホワイトハウスを訪れている。同社は「制裁のインパクトについての情報」を提示し「制裁は米国企業にとり公正なものでなければならない」という見方を表明しただけでロビーイングはしていない、としている。公聴会では、制裁は「有力な手段」だが、うまく設計されることが必要、とコメントしている。

・近日中にテイラーソンは、政府内で自らの見方を表明できるようになるかも知れない。彼は最高経営者としてエクソンの成長への新分野を切り開くことはできなかったかもしれないが、トランプがまさにそのことを実現する手助けをできるかもしれない。

Let’s see what will happen。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年1月23日のブログより転載させていただきました(アイキャッチ画像はホワイトハウス公式サイトより)。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。