通勤手当は損金不算入・課税対象にしてラッシュ緩和を

松本 孝行

通勤手当を廃止せよ — 牧野 雄一郎という記事がアゴラに上がっていて興味深く拝読させていただきました。通勤手当廃止なんていうと、労働者は大変なことになると考える人が多いでしょう。しかし通勤手当が同一労働同一賃金を歪めているのも一面の事実であると思います。

もし本気で国が、そして日本で働く人々が「通勤ラッシュをなくそう!」「通勤手当における格差をなくそう!」というのであれば、通勤手当を損金不算入、そして課税対象にしてみてはいかがでしょうか。

通勤手当は企業・労働者共に金銭的メリットがある

そもそもなんでこんなにも通勤手当が当たり前のように出ているのか?ということですが、一つは企業にとっても労働者にとっても金銭的なメリットがあるから、というのが大きな理由の一つでしょう。

通勤手当は企業にとっては損金扱いで、法人税を抑えることができます。また労働者側から見ると、給料でもらうと法人税・住民税の対象になりますが、通勤手当でもらう場合は一定金額までは非課税になっています。企業にとっても労働者側にとっても、金銭メリットはあるわけです。

ですのでこの金銭的なメリットがなくなれば、企業側としては通勤手当を払う必要性はなくなります。同時にその通勤手当はすべて給与に上乗せした形で支払われるか、もしくは通勤手当分はカットされます。逆に労働者側にとっては通勤手当がなくなるか課税されるので、デメリットのほうが多いように思います。

ですがそれ以上にプラスのメリットも出てくる可能性があります。

テレワークや職住近接、都市部の賃金上昇に

それは多様な働き方の誕生です。労働者側から考えれば「なんで通勤手当が出ないのに、遠くから通わないといけないんだ」と思うでしょう。結局できるだけ交通費をかけずに近くで働けるところを探すようになると思います。持ち家の人は特に住む場所を変えることができないのですから。

企業にとっては通勤費がなくなっても人手不足の昨今、なんとか労働者を確保しなければなりません。しかし人を集めるからと言って通勤手当を出したら、それは企業にとっては損になる…となると、企業も考えを変える可能性があります。

一つはテレワークです。テレワーク・モバイルワーク・在宅勤務など、呼び方は様々ですが通勤せずに電話やメールで仕事をする形態です。そもそも必ずしも通勤しなければいけない仕事ばかりではありませんから、そのような仕事はどんどんテレワークに取って代わられる可能性があります。

二つ目は職住近接です。住む場所と働く場所が近くなることですが、多くの人は近くの働き口を探すでしょう。企業側も都市部以外にオフィスを構える可能性が高くなります。住んでいるところと働くところが近い職住近接にはメリットがたくさんあります。例えば子どもの送り迎えがしやすいこと、自転車や徒歩で通勤できてラッシュに揉まれないこと、飲んで歩いて帰れるなど様々なメリットがあります。

三つ目が都市部の賃金がさらに上昇する可能性があることです。通勤手当が廃止され、都市部に郊外から来る人が少なくなれば都市部は人手不足に陥ります。都市部に住んでいる少ない人をめぐり、多くの企業が賃金を上げていくでしょう。うまくいけば海外と同じレベルまで上がる可能性もあります。

以上はすべて可能性でしかありませんが、通勤手当がなくなれば労働者・企業ともに今のあり方が変わってくることは間違いありません。

通勤ラッシュを緩和したいなら本気で労働構造を変えよ

牧野さんにしてもそうだと思いますが、私がこのように考えるに至った発端は「東京や大阪の通勤ラッシュはおかしい、緩和させるべきだ」という思いから始まっています。通勤ラッシュはダメ、これを社会的に変えるんだと国も国民も思うのであれば、本気で労働構造を変えようとすべきでしょう。

小池都知事が2階建ての電車の構想を話されたらしいですが、それでは本質的な通勤ラッシュ緩和にはつながらないのではないかと思います。本気で東京が通勤ラッシュ緩和をしたいのであれば、通勤手当の廃止や課税・損金不算入など、ドラスティックな改革が必要ではないかと思います。