皆さまは、突然のトラブルに巻き込まれたことがあるだろうか。もし、トラブルが、今日あなたの身に降りかかる可能性が高いとしたら、どのようにして身を守るだろうか。
アゴラにも記事を投稿いただき、各種行政委員会委員等も歴任している、荘司雅彦(以下、荘司弁護士)氏の近著『本当にあったトンデモ法律トラブル』(幻冬舎新書)には、今日、降りかかるかも知れないトラブルの事例と対処方法がわかりやすく紹介されている。
愛する私の言葉を信じてくれないなんて
世の中には、突然、身に降りかかる法律トラブルが存在する。その一つに不倫問題がある。昨年は不倫ドラマが目白押しだった。芸能人の不倫は数知れず、ゲス不倫、政治家不倫など枚挙にいとまがなかった。世間の不倫事情はどのようになっているのだろうか。
フランスのエスプリに、次のようなシーンがある。要約して紹介したい。夫が帰宅すると、妻は情事の真っ最中だった。怒り狂った夫が妻に対して、「ぼくという夫がいながら許せない!」と言うと、妻は、「私は浮気なんてしてないわ」と平然と答える。
「君がやっていたことは何なんだ!」、夫がますます怒り狂うと、妻は悲しそうな声でつぶやく。「あなたって……ひどい夫。だって、愛する私の言葉より、自分の目の方を信じるんですもの」。実はこれに近いようなことが発生することは多いようだ。
荘司弁護士が、妻との離婚問題がこじれているという男性の依頼を受けたときのことである。まず、夫は、妻が他の男性とラブホテルに入ったときの写真、滞在した時問、日時などを詳細にまとめた興信所のレポートを持っていた。
「こんな明白な証拠があれば、離婚はスムーズに運ぶでしょうと言うと、夫はこう言いました。『私には、自分が興信所に依頼したことを、妻の目の前でぶちまける勇気がありません。先生にレポートをお預けしますので、妻と離婚交渉をしてもらえませんか?』。かくなる次第で、夫の代理人に就任し妻と交渉することになりました。」(荘司弁護士)
「『弁護士費用をドブに捨ててもかまわないというくらいの気持ちがおありなら、承ります』と念押しをして、『夫の代理人になりました。今後のご連絡等はすべて当職宛にお願い申し上げます』という通知を、妻に対して送りました。」(同)
数日後、妻から事務所に電話があり、二人だけで会うことになったそうだ。当初は興信所のレポートのことは伏せて、説得を試みる。
ところが、妻は驚きの言葉を口にする。「私、夫に慰謝料を払ってもらいたいのです。最低でも300万円はいただきたいと思っています。先生、離婚するときに、夫が妻に慰謝料を支払うのは常識じゃないですか?」と全く聞く耳を持たない。このようなやり取りのあとに、次のように諭したそうだ。
「現実に裁判になっても、ご夫婦の現状を斟酌しますと、裁判所はご主人に対して慰謝料の支払いを命じることはないと思います。」(荘司弁護士)
「これをご覧ください(興信所のレポートを見せる)。調停、訴訟になったら、不貞行為をしたあなたの方が慰謝料を支払わなければならないのですよ。」(同)
椅子から立ち上がろうとする妻を制した。すると妻はいきなりベソをかき、涙声で話し始めた。「私、決して浮気なんてしてません。足をくじいてしまって困っているところを、たまたま通りかかったこの男性が、ホテルで手当てしてくれただけなのです」と。
「諦めてその日の話し合いは、お流れとすることにしました。彼女相手にどのような追及をしても、あの手この手で言い逃れをして、絶対に真実を認めることはないと確信したからです。」(荘司弁護士)
どのような結末が待っていたのか
その後、調停に持ちこみ離婚が成立したものの、妻は最後まで不倫の事実を認めなかったとのことだ。それに比べると、夫は、簡単に浮気を白状してしまうらしい。
「白状ついでに妻に全面降伏して、浮気相手の女性に対する妻からの慰謝料請求に協力するという、実に情けない夫もいます。弁護士をやっていて、私がつくづく思うことは、夫は腕力では姿に勝りますが、駆け引きや交渉という知力では、妻の方が夫よりはるかに上だということです。」(荘司弁護士)
女性には、男性がかなわない知力と胆力と交渉力がある。それを発揮できる分野はたくさんある。実は、そのことに一番気づいていないのは、日本の男性なのかも知れない。
なお、本書のケースにはリアリティがある。多くのケースを理解することで危機管理能力を高められるかも知れない。いざという時に慌てないためにも、信頼できる弁護士とのコネクションを構築しておきたいものである。
尾藤克之
コラムニスト
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