待機児童ではない。本当は「官製失業」なのだ

認定NPO法人フローレンス代表で、保育に関する政府審議会の委員も務めております、駒崎です。

さて、 待機児童を抱えた親たちが「#保育園に入りたい」という悲壮なハッシュタグをつけて呟いている状況に対し、Twitter上でこのような反応が見受けられました。

「じゃあ、待機児童いない地域に引っ越せよ」と。

こういうコメントは、ああ、きっと児童福祉法第24条を知らないから言ってるんだな、と保育事業者である僕は思うわけです。

児童福祉法第24条とは何か

児童福祉法にはこうあります。

第二十四条

市町村は、この法律及び子ども・子育て支援法 の定めるところにより、保護者の労働又は疾病その他の事由により、その監護すべき乳児、幼児その他の児童について保育を必要とする場合において、次項に定めるところによるほか、当該児童を保育所(認定こども園法第三条第一項 の認定を受けたもの及び同条第九項 の規定による公示がされたものを除く。)において保育しなければならない

○2市町村は、前項に規定する児童に対し、認定こども園法第二条第六項 に規定する認定こども園(子ども・子育て支援法第二十七条第一項 の確認を受けたものに限る。)又は家庭的保育事業等(家庭的保育事業、小規模保育事業、居宅訪問型保育事業又は事業所内保育事業をいう。以下同じ。)により必要な保育を確保するための措置を講じなければならない

細々してて分かりづらいのですが、簡単に言うと、「自治体の保育の提供義務」を定めたものです。

そう、皆さんのお住いの区とか市は、法律で保育を必要とする人には、保育を提供しなきゃダメなんだ、と児童福祉法第24条で決められているんです。

大切なので繰り返しますよ。保育を提供するのは、基礎自治体の義務なんです。

法律違反状態の地方自治体

それなのに保育を提供できていない、っていうのは、法律違反なんです。

我々が我々の代表として選んだ国会議員が決めた法律を、地方自治体が守れてないんです。

また、国も法律を守らせられてない、という意味では共犯関係です。

だから、「引っ越せよ」というのはお角違いも甚だしいんですよ。

小学校に入れない子ども達がいて、「学校行けるところに引っ越せ」って言いますか?そんなわけないでしょう。

自治体は小学校作って、教育を提供する義務があるんだから。それと同じです。

「何言ってんだよ。法律で決めたんだったら、守ろうぜ」って、怒らないとダメなんです

待機児童=官製失業

そういう意味でいうと、待機児童問題というのは「本来国が作った法律を守って、自治体が保育園を必要十分な量つくる」はずだったのに、できていない地方自治体の責任。

また地方自治体がいっぱいいっぱいなら、早めにがっつり支援すれば良かったのにしなかった国の責任なんです。

「官」の不作為のせいで、国民たる(主に)母親達が仕事を失っているんです。これを「官製失業」と言わずして、何なんでしょうか。

みなさん、もっとちゃんと怒った方が良い。

地震や台風で働けなくなったんじゃない。しっかり決めたことを守って行政が働かなかった。だからあなた仕事やめてください、っていう話なんです。

旧日本軍は撤退を「転進」、全滅を「玉砕」と言い換え、現実を見えなくさせていました。待機児童もこれと同じです。

あたかもちょこんと待っている子どもがいるだけのように感じさせます。

しかし、本当はそれによって働いていた親は働けなくなり、これから働こうという親も働けなくなり、心理的な、経済的なダメージを食らっているのです。

しかもそれは子どもが悪いのでも、親が悪いのでもなく、官がその責務を果たしていないことによるのです。

よって、待機児童という言葉を使うのではなく、待機児童(官製失業)という言葉を使いましょう。

つらい現実を、しかししっかりと見つめなければ、解決は遠くなっていくばかりなのですから。そしてみんなで声をあげていきましょう。法律を守り、保育を必要とするすべての人に、保育の光を、と。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2017年2月9日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。