アゴラで出版道場(著者と論客を養成する講座)を開催するようになってから、出版にまつわる質問を受けることが増えてきた。そのなかでも多いのが「出版プロデューサー」という仕事に関連する質問である。
「出版プロデューサー」に資格は不要だ。名乗った時点で「出版プロデューサー」になれる。出版業界に顔がきくことが前提だから出版業界関係者が圧倒的に多い。また売れなくなった著者も「出版プロデューサー」になる傾向が高い。
ある出版プロデューサーの話
数年前の話である。業界では著名な「出版プロデューサー」に会う機会があった。仮にA氏としよう。相当数の出版物を上梓しているが最近は本が売れないらしい。元々はコンサルタントで、販促、ブランディング、スピリチュアルまで網羅しているが専門領域が不明だ。
大手コンサルティング会社出身とのことだったので、次のようなやり取りをした。
「どちらのファームご出身ですか?」(尾藤)
「ファーム?僕は二軍ではないので」(某コンサル)
「いや、野球のファームではなく、コンサルファームのことです」(尾藤)
「野球チームのコンサルのことですね。私の知人が得意です」(某コンサル)
「そうではなくて。どちらのファーム出身かと思いまして」(尾藤)
「東北のほうです。あちらのファームはいいですね!!」(某コンサル)
「・・・」(尾藤)
どうやら、コンサルティング業界の内実については情報が乏しいらしい。本人は、一流のコンサルタントを標榜しているが確認できる公的ソースも見当たらない。さらに、この、A氏という人物。風呂敷を広げるクセがあるとの評判があった。
出版社の企画会議では、「僕が出せば数万部はかたいです」「1000近いイイネがつきますから。いつでも協力させますよ」。その割には出版してもAmazonランキングは100位台に入らず、SNSでの拡散も見られない。本人が書店で撮影したと思われる写真は投稿されているものの、実売を調べるとほとんど動きが無い。
育てた著者や経営者も多いとの話だったが、具体的な名前を明かそうとしない。そんな、A氏の出版塾出身といわれる方の出版が決まった。仮にB氏としておこう。色んな方から出版パーティの案内がきて堅調かと思われたが、B氏の著書は売れなかったようだ。
数ヵ月後に渾身一滴の一冊を出したが、これも残念ながら売れなかった。気がついたらB氏は「出版プロデューサー」になっていた。出版社から声がかからなくなっていた著者が、見事に転身したのである。
冷静に考えてもらいたい
しかし冷静に考えてもらいたい。売れない著者のプロデュースをうけて出版が実現できるとは思えない。出版にこぎ着けたとしても間違いなく売れない。売れないコンサルタントに指名が入らないのと同じ理屈である。自分が出版できなくなったから出版プロデューサーになるという姿勢もよろしくない。
それでも、出版したい人は大勢いるから、情報が乏しい人に「出版させてあげるよ!」なんて甘い言葉をかけて、お金を搾取する人が多いのだろう。「ゲスな極み!出版プロデューサーという仕事」という話。ここは、選択する側が賢くなり目利きにならないといけない。
また、本を出したいと思うなら、著書としてのクオリティはもちろん、売るための努力を惜しまないことだろう。いまの時代は、出版しても売れる保証は無いから出版社の判断も早い。重版率は1~2割程度だ。人から応援されるネットワーク形成も必要になる。私がセミナーで話したい内容。それは「出版業界をおおっぴらにした話」かもしれない。
尾藤克之
コラムニスト
<アゴラ研究所からおしらせ>
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