昨年12月のOPEC・非OPEC協調減産合意後、WTI原油価格は50~55ドルのボックス圏に入っているようだ。現状分析については、今朝の日経記事、脇祐三編集委員の「原油50ドル台 減産なのに上値が重いのはなぜ」が秀逸だ。読者の皆さんもぜひお読みいただきたい。
唯一もの足りないのは、「先物曲線」についての分析がないことだ。昨年11月末のOPEC総会までは明らかな「コンタンゴ(先高)」だったのだが、以降、目先から数ヶ月先までの「コンタンゴ」の後は、ほぼフラットとなっていることの意味することは何か、脇さんの見解が知りたかった。
さて、このように市場が次の材料待ちで停滞している中、掲題ニュースが飛び込んできた。Bloombergが2月19日20:03に “Abu Dhabi awards China’s CNPC stake in main onshore oil deposits” と題して伝えているものだ。
昨年12月17日、弊ブログで「BP、アブダビ陸上油田権益を24億ドルで入手」と題してFTの記事を紹介したとき、残りの16%は誰の手に渡るのだろうか、我が国の国際石油開発帝石(INPEX)が2015年の春に5%取得した時には安倍首相も動いたと報じられていたが、エクソンモービルのためにトランプ「大統領」やティラーソン「国務相」が動くのだろうか、と書いたが、米国より先に中国が動いていたようだ。
この取引の結果、生産量約160万B/Dのアブダビ陸上鉱区の操業会社 ADCO (Abu Dhabi Company for Onshore Oil Operations) の株主構成は次のようになっている。
旧権益 | 新権益 | |
ADNOC | 60% | 60% |
BP | 9.5% | 10% |
Total | 9.5% | 10% |
ExxonMobil | 9.5% | ? |
Shell | 9.5% | ? |
Partex | 2% | ? |
GS Energy (韓国) | − | -3% |
INPEX | − | -5% |
CNPC | − | -8% |
注釈:当該鉱区は、1939年から75年間の契約により、ADNOCを除く旧権益保持者5社が按分比率で保有していたが、1970年代からの国営石油ADNOCの事業参加により6割を取り上げられ、旧権益比率となっていたもの。Partexは、赤線協定の生みの親である「Mr.5%」と呼ばれたグルベンキャンの権益を保持していた会社。2014年に75年間の当該契約が切れた後、暫定的に100%ADNOCの保有となっていたが、40%分は順次国際石油会社に譲渡すべく、交渉を継続しているもの。今回の契約期間は40年間。
残りの8%については、Partexはすでに歴史的使命を終えているので対象外で、ShellとExxonMobilの争いになると思われる。あるいはインドが攻勢をかけているか?
新ピーク・オイル論と呼ばれる「需要ピーク」の時代が訪れたら、コスト競争力のない資産はstranded assetsに陥るリスクがある。その観点からも、当該アブダビ陸上鉱区はShellにとってもExxonMobilにとっても、ぜひとも確保したい資産だろう。
今回のニュースは、生産している鉱区の所有者が一部移動するだけで、生産量そのものに影響を与えるものではない。その意味では需給バランスは不変だ。
だが、中長期的には、「需要ピーク論」との兼ね合いで重要な意味を持つだろう。また、サウジアラムコのIPO時の資産評価にも影響を与えそうだ。
はてさて、月曜日、市場はどのような反応を示すのであろうか。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年2月19日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。