イベンターとしてのテレビ

中村 伊知哉

「BACKSTAGE 2016」なるイベントに参加しました。虎ノ門ヒルズというゴージャスな会場。案内には「イベンターの、イベンターによる、イベンターのための夏のフェス」とあります。

「海外から上陸してムーブメントを起こしたり、テクノロジーと融合して新たなコミュニケーション方法を獲得したり、顧客に語りかける場として有効活用されるExperience Marketingの最新事情についてイノベーター自らが語り、体感する場です。」読まずにコピペしてます。コメントは避けます。

「テレビ局が新たに仕掛ける「体験価値コンテンツ」」というセッションの司会を頼まれたので、ハラハラしながらおもむきました。登壇者はTBSテレビ石井大貴氏、日本テレビ原浩生氏、フジテレビ橋本英明氏。テレビ局として体験価値=イベントを引っ張る若き代表です。

TBS石井さんはTBS石井大裕スポーツアナの実兄。吉田沙保里さんと3人でCD「目を覚ませ」をリリースしている。という時点でもう解説不能ですが、ドローンレース大会を企画運営したり、BMXの大会を仕掛けたりしています。KMDの博士課程の学生でもあります。

日テレ原さんは、huluの配信に関わりつつ、テクノロジー色をテレビに持ち込んだ番組SENSORSを手がけています。フジの橋下さんは、シルクドソレイユやらDMMのVR案件やらに加え、お台場でアイドルのエンタメライブに携わっています。

ざっくり言うと、TBS=スポーツ、日テレ=テクノロジー、フジ=エンタメ。横並び業界だった民放は、もう多様な戦略で独自色を強めていて、本業の外側へ若いプロデューサーたちがもんどり打っているんです。

地デジを20年かけて整備した後、テレビ局もようやくネットへのシフトを強めます。そんな中、世間はネットからライブ、バーチャルからリアルへの体重移動を進めています。これに対しテレビ局のライブ、リアル対応にも若いクリエイターが力を入れているということです。

アメリカはハリウッドが放送局も抱えていますが、日本の場合、放送が映画の面倒を見るなど、テレビの存在は大きい。良し悪しは別にして、歴史・政治的経緯からそうなりました。イベントも、お台場、汐留、赤坂、六本木、渋谷など、テレビ局の所在地を使ったものが存在感を見せます。

かつてテレビが強すぎた頃と異なり、外資のネットも強力になった以上、テレビの立場を叩くより、有効活用することが戦略だとぼくは考えます。なのでテレビ局がネット+リアルイベントにどう乗り出すか、興味があります。

テレビ局というバーチャルのサービス主体がリアルのライブを手がけることは、必然の方向とはいえ、リスキー。そこで彼らは多様な主体と手を組んでソーシャルっぽく仕事を進めています。放送局は従来、自前主義が強く、経済のバリューチェーンから独立していましたが、やっと社会の一員になるようです。

あんなに地デジにカネをかけたのに、人々は映像はスマホだってんで、インタラクティブテレビだのソーシャルテレビだの、もう次の地点にうつろう。ではライブに集まったかたがたを、スマホやソーシャルと結びつけて、テレビの本業にどう還元していくのか。あるいは、しないのか。彼らに問われるものは重い。

テレビはバーチャルの広告ビジネスでした。それがリアルのマルチビジネスに踏み出します。自己中心のモデルを他者連携に転換します。だけど、制作力・電波というソフト・ハードの資産を全面利用します。若いテレビマンは、そんな自信に満ちていました。

それぞれのプロデューサーは、2020東京の開会式を、どう企画しますかね。今度はそれを聞いてみたい。

 

編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2017年2月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。