出版ビジネスの海外戦略

写真ACより(編集部)

「クールジャパン・出版ビジネス・パートナーズフォーラム~作者・版元・書店それぞれのクールジャパン戦略」。東京国際ブックフェアが開催されたビッグサイトにて。講談社吉羽治さん、手塚プロダクション清水義裕さん、KADOKAWA塚本進さん、アニメイト外川明宏さん。ぼくが司会。

東京のデジタル特区CiPはビジネスマッチングを活動の柱にしています。既に動画協会に協力して、アニメ・ビジネスパートナーズフォーラムというアニメ業界と他業種との連携策を進めていまして、それをマンガ・出版業界でもやってみよう、というのが今回の取組です。

冒頭、政府・知財本部の増田次長にお話をいただきました。「海外でクールと思われている日本文化を海外に発信・展開してインバウンドに日本の経済成長に繫げる活動をしていく。キーワードは「連携」。民が主体となり、官が支援していく。」政府は本気。

吉羽さんは、北米進出50年を迎える講談社が、米欧アジアの展開に注力していること、電子出版を重視していることを話されました。書籍のライセンスは中韓台が90%である一方、マンガは米仏独韓台で80%だそうです。

講談社はアニメのサイマル配信を重視。アトラクションにも力を入れている。マンガ、アニメ、映画、という積み重ねがここに来て力を発揮している、という分析です。

手塚プロ清水さんは、700タイトル400冊という手塚治虫の知財をさまざまな形で展開しているといいます。鉄腕アトムをアニメ、実写でフランスやハリウッドで展開したり、パロディを許して収益を得たりするという戦略。

清水さんはキーワードとして「コラボ」を挙げます。海外でさまざまな作家、クリエイターたちと連携して、手塚のIPを活用していくという方向です。

アニメイトの外川さんは、2016年2月に開いたバンコク店を紹介してくれました。講談社やKADOKAWAとも連携して展開しているとのこと。コスプレ・アイドルイベント、遊戯王公式大会、ガンプラ、セーラームーンパーティーなども開いているとか。

ぼくもバンコクでクールジャパンのイベントを開いたり、書店を見に行ったりします。コンテンツ、ライブやグッズを合わせたビジネスが広がっています。タイだけでなく、中韓、シンガポール、マレーシア、インドネシア。広がりを見せていますよね。

KADOKAWA塚本さんは、現地のネットワーク化とサイマル、という戦略を強調されました。マレーシア、北米、中国、タイ、台湾という拠点で、出版、ネット配信、人材育成、さらにそこからのインバウンドという幅広い狙いです。

特に、クールジャパン機構の資金も使って人材育成に取り組む、そしてインバウンドを狙うという、いずれも長期をにらむ戦略にぼくは強く惹かれました。

さて、3点うかがいました。

・海外展開を行うために必要なことは?
答え:地域に合わせる。現地のマーケットを見る。現地の人が喜ぶものを作る。時間をかける。なるほど。売りたいものより、買いたいもの、ということですね。

・課題は?
答え:同時性=日本のファンと同じ時間に同じものを見られるようにする。完成保証の保険(訴訟のカバーが出来る保険企業が日本では少ない)。海賊版対策。人材=語学力、コミュニケーション力。

・政府への要望は?
答え:海賊版対策。保証・保険。人材育成支援。
なるほど。みなさん補助金行政というより、インフラ整備をお望みだと。

政府がコンテンツの海外展開を柱にするようになって5年。ようやくコンテンツ業界全体にリズムが出てきました。これをヨコ連携で広げていく。実はこのシンポ、予想以上の申込みで多くのかたがたに来場お断りをせねばなりませんでした。この機運を早く成果に結びつけたい。よろしく!


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2017年2月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。